無権代理 表見代理の成立要件

事例2
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の別荘の売買契約を締結した。


 この事例2で、Bは代理権がないのに代理行為をしています。これを無権代理といい、Bのような者を無権代理人といいます。
 さて、ではお金持ちのAさんは、無権代理人Bの勝手な行動によって、C所有の別荘を買わなければならないのでしょうか?
 結論。AはC所有の別荘を買わなければならなくなる訳ではありません。なぜなら、Bには代理権がないからです。当たり前の話ですよね。
 え?じゃあ誰が別荘を買うの?B?
 Bが買うことにもなりません。なぜなら、Bは顕名をしているからです。顕名をしていなければ、民法100条のただし書きの規定により、B自身が買わなければなりません。しかし、Bはたとえ偽りであれ「Aの代理人B」ということは示しています。ですので、B自身が買主にはならないのです。
 ん?じゃあどうなるん?
 このままだと、一番困ってしまうのは、代理行為の相手方のCですよね。Bの勝手な行動による被害者とも言えます。そこで!民法では、このような無権代理人の相手方を救う制度を設けています。それが表見代理です。

表見代理とは

 表見代理とは、ある一定の要件を満たしたときに、無権代理行為が通常の代理行為のように成立する制度です。つまり、事例2のCは、ある一定の要件を満たせば、本人Aに対して別荘の売買代金を請求できるのです。
 では「ある一定の要件と」とは何でしょうか。表見代理が成立する要件は2つあります。
1・相手方の善意無過失
2・本人の帰責事由

 それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。

1・相手方の善意無過失
 これは、事例2にあてはめますと、Cの善意無過失です。どういうことかといいますと、BがAの代理人だとCが信じたことに過失がない、ということです。例えば、BがAの印鑑証明書まで持ち出してCに見せていたら、何も事情を知らないCは、普通にBがAの代理人だと信じてしまっても仕方がないですよね。したがって、そのような場合のCは善意無過失となります。
 一方、実はBがAの代理人ではないことをCが知っていたり、自らの注意不足が原因で、Aの代理人BということをCが信じてしまっていたような場合、それは善意無過失にはなりません。

2・本人の帰責事由
 これも、事例1にあてはめてご説明します。まず事例1において、本人とはAのことですよね。つまり、Aの帰責事由です。例えば、BがAの印鑑証明書まで持ち出していて、しかもそれが、AがBを信頼して渡していたものだったとしたらどうでしょう。そのような場合、Cにはこんな言い分が成り立ちます。
「一番悪いのは無権代理行為をしたBだ。しかし、そもそもAがBなんかに印鑑証明書を渡していなければ、こんな事も起こらなかったんじゃないか!?」
 これは、法律的に正当な主張になります。「Bに印鑑証明書を渡してしまったAも悪かった」ということです。すなわち、Aに帰責事由アリということです。これが表見代理を成立させる要件の2つめ、本人の帰責事由です。

 以上、2つの要件「相手方の善意無過失」「本人の帰責事由」を満たすと、表見代理が成立します。従いまして、事例2のCは、BがAの代理人であるということについて善意無過失で、かつ本人Aに何らかの帰責事由があった場合は、表見代理が成立し、本人Aに対して別荘の売買代金の請求ができるということです。同時に、本人Aには別荘の売買代金の支払い債務が生じ、無権代理人Bの責任を本人Aが取らなければならなくなります。

 という訳で、今回は以上になります。今回ご説明した内容が、ややこしくなりがちな、表見代理の基本になります。
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代理人が顕名しなかったとき

 代理を構成する要素は次の3つです。
1・顕名
2・代理権
3・代理人と相手方の法律行為

 これをわかりやすく、事例で見てみましょう。

事例1
お金持ちのAは、軽井沢に別荘を買いたいと考えていたが、多忙のため手がつかないので別荘の購入をBに依頼した。そして、BはAの代理人としてC所有の甲建物を購入した。


 この事例1で、代理を構成している3要素は
1・「私はAの代理人Bです」という顕名(通常は委任状を見せる)
2・本人Aを代理して権利を行使する代理人Bの代理権
3.BC間の売買契約
ということになります。
 では、これら代理を構成する3要素のどれかが欠けてしまったときは、どうなるのでしょうか?

顕名がない代理行為

 例えば、事例1で、代理人BがCに対し「私はAの代理人Bです」という顕名をしなかったらどうなるでしょう?普通に考えて、代理人が顕名をしないとなると、相手方は単純に、代理人自身を法律行為の相手方だと思いますよね。そこで民法では、このような場合について、次のように規定しています。

(本人のためにすることを示さない意思表示)
民法100条
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。

 これは条文を読めばすぐわかりますよね。つまり、顕名をしなかった代理人の法律行為は、代理人が自分自身のためにしたものになってしまうということです。従いまして、事例1で、代理人Bが顕名をしなかった場合、Bは自分自身のために甲建物を購入したとして、BC間の売買契約が成立します。ですので、B自身に代金支払い債務が生じ、Cが甲建物の売買代金を請求する相手はBになります。Bが「そんなつもりはなかった」と言って支払いを拒むと、債務不履行による損害賠償の請求の対象になります。代理人が顕名をしないと大変なことになってしまうということです。
 では、顕名を忘れた代理人Bには、何か救いの道はないのでしょうか?実は、民法100条には続きがあります。

民法100条続き
ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。

 これはどういうことかといいますと、たとえ代理人Bが顕名をしたかったとしても、相手方のCが「BがAの代理人であることを知っていた悪意)」または「BがAの代理人であることを知ることができた有過失)」ときは、顕名があった場合と同じように扱う、つまり、通常の代理行為として扱うということです。したがって、そのようなケースでは、甲土地の売買代金の請求先はAになります。

 さて、顕名がなかったときにどうなるのかはわかりました。それでは、代理人に代理権がなかった場合はどうなるのでしょう?実は、ここからが代理についての本格的な学習になります。今回はまだ、代理制度のイントロに過ぎません。次回からいよいよ、代理制度のサビ、代理権がなかった場合についての解説に入って参ります。
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代理の基本 代理の3要素

 今回は代理についてです。ちなみに、制限行為能力者の話などで出てくる法定代理人は、代理の一種です。
 代理の制度は、法的三面関係を生み出すといわれ、相手方を含めて登場人物が最低3人は登場します。ゆえに、慣れないうちはややこしく感じるかと思いますが、私なりに、じっくりとわかりやすく解説して参りたいと存じます。
 まずは、代理に関する民法の条文を見てみましょう。

(代理行為の要件及び効果)
民法99条
1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2項 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

 上記の条文で、大事なポイントが3つあります。そのポイントをひとつひとつ見ていきます。

1・代理人がその権限内において
 権限というのは、権利の限界ということですよね。つまり、「代理人がその権限」ということは、法律的に、代理人には代理人としての権利、すなわち代理権が存在するということを意味します。そして、「その権限内」ということは、代理権の範囲内という意味です。これは例えば、ギタリストのAさんがBさんに「YAMAHAのギターを買ってきて」と頼んだとすると、BさんはAさんの代理人になり、Bさんの持つ代理権の範囲は「YAMAHAのギターの購入」になります。ですので、YAMAHAのピアノを購入することはできません。なぜなら、Bさんの持つ代理権の範囲外だからです。また、Aさんが「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼し、Bさんが「OK牧場!」とそれを承諾すると、その時点で委任契約が成立します。
2・本人のためにすることを示して
 これは例えば、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんに行って「Aの代理人のBです。Aのために購入します」と示すということです。これを顕名といいます。顕名の仕方は、最も確実なのは委任状を見せることですが、委任状を示さずとも「Aの代理人B」ということが相手にわかれば、顕名があったといえます。
3・意思表示
 2項で書かれていることは、例えば、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんから「YAMAHAのギターを売りました」という意思表示を受け取った場合のことです。つまり、代理人と相手方の間で売買契約などの法律行為が行われたということです。

 以上ご説明申し上げた3つのポイント
1・代理権
2・顕名
3・代理人と相手方の法律行為

 これらが代理の3要素、すなわち法律要件になります。法律要件ということは、これらの3要素「代理権・顕名・代理人と相手方の法律行為」が存在して初めて代理が成立するということです。まずはここを押さえておいて下さい。
 そして最後に、もうひとつ重要なポイントがあります。それは条文中の「本人に対して直接にその効力を生ずる」という部分です。これは、先述の3つの法律要件を満たして代理が成立すると、その法律効果は本人に及ぶということです。ということは、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんでYAMAHAのギターを購入すると、その法律効果はAさんに及びます。つまり、YAMAHAのギターの購入代金の債務はAに生じるので、楽器屋さんが請求書を書く場合、そのあて先はAになります。そして、購入したYAMAHAのギターの所有権もAさんのものになります。
 このように、本人と代理人の代理関係、代理人と相手方の法律行為、法律行為の効果帰属、という三面関係が、最初に申し上げた「法的三面関係」を生み出すという代理制度の大きな特徴になります。

 という訳で、今回は以上になります。今回ご説明申し上げた内容が、代理という制度の「キホンのキ」になります。ちょっと退屈な内容かと思いますが、まずはここをしっかり押さえておいて下さい。
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法定追認

 通常の追認は、追認権を持つ者が「その法律行為を追認します」と追認することにより行います。しかし、それ以外にも追認する方法があります。それが法定追認です。
 法定追認とは、追認権者が追認の意思表示をしなくとも、ある一定の行為を行った場合は、法律上当然に追認したとみなされる、というものです。つまり、追認権を持っている人が「追認します」と言わなくても、ある一定の行為を行ってしまった場合は、法律が勝手に「おまえのとった行動は追認したのと一緒だ!」として、法律上の追認として扱われてしまうということです。そして、その法律上追認したとみなされてしまう行為が、民法125条により規定されています。それは以下になります。

法定追認される行為(民法125条抜粋)
1  全部又は一部の履行
2  履行の請求
3  更改
4  担保の供与
5  取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
6  強制執行(自らが強制執行をする場合のみ)

 これだけだと今ひとつよくわかりませんよね。ですので、次の事例をもとに、ひとつひとつ解説して参ります。

事例
相続により甲土地を取得した未成年者Aは、単独で甲土地をBに売却した。


1・全部又は一部の履行
 この事例で、制限行為能力者である未成年者Aが単独で行った甲土地の売買契約は、有効に成立していません。では、Aが20歳を過ぎて成年となってから、すなわち行為能力者となってから、追認も取消しもしないまま甲土地をBに引き渡したとしましょう。あるいはBから、代金の全額または一部の支払いを受けたとしましょう。するとAは、甲土地の売買契約を追認したとみなされます。たとえ追認する気がなかったとしてもです。これが法定追認の効果です。

2・履行の請求
 この事例で、Aが20歳を過ぎて成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないままBに対して「甲土地の売買代金を払ってくれ」と請求すると、その時点で、Aは甲土地の売買契約を追認したとみなされます。

3・更改
 更改に関しては、初学者の方はすっ飛ばしてもかまいません。ですので、ざっくり申し上げておきます。事例1で、Aが20歳を過ぎて成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないまま甲土地の売買契約を乙土地の売買契約に変えた、というようなケースです。この場合も、Aは追認したとみなされます。

4・担保の供与
 担保というものについての詳細は、別途改めてご説明申し上げます。とりあえず、今回の法定追認においての担保の供与についてですが、事例のAが、20歳を過ぎて成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないまま、Bからお金の代わりに何らかの物を受け取ったような場合です。そのような場合も、Aは追認したとみなされます。これだけだとピンと来ないと思いますが、とりあえず、このような規定もあるということだけ、何となく覚えておいて下さい。そして後々、担保物権等を学習してから思い出して頂ければと存じます。

5・取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
 これは、事例のAが、20歳を過ぎて成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないままBに対して「甲土地の売買代金はCに払ってくれ」と言って、甲土地の売買代金を受け取る権利(債権)を他人に譲り渡すとその時点でAは追認したとみなされます。ちなみに、このようなAの行為を債権譲渡といいます(債権譲渡の超基本はこちら)、要するに、先述のような債権譲渡にも、追認効果があるということです。

6・強制執行(自ら強制執行する場合のみ)
 強制執行について、今ここで詳しく説明しようとすると、内容がテンコ盛りになり過ぎて逆に訳がわからなくなってしまいますので超ざっくり申します。事例でAが、20歳を過ぎて成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしていない状況で、裁判所の力を使って問答無用でBにお金を払わせることです。超ざっくりで申し訳ございません(笑)。とりあえず、そのような場合もAは追認したとみなされる、ということを頭に入れておいて下さい。(強制執行の超基本はこちら

 という訳で、今回は以上になります。正直、担保や債権譲渡など、よくわからない箇所もあったかと思います。そのような部分に関しては、担保物権や債権譲渡など、民法の学習をさらに進めた後に復習して下さい。民法の学習は、繰り返し繰り返し塗り重ねるペンキ塗りのように深めていくものだと、私は考えております。また、そのように行った方が、理解も深まりやすいと思います。
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制限行為能力者の相手方の催告権

 制限行為能力者が、単独では有効にできない法律行為を単独でした場合、その法律行為の相手方は、取り消されるか追認されるかされるまでは、言ってみれば宙ぶらりんの状態です。

事例
被保佐人のAは、単独で自己所有の甲土地をBに売却した。

※被保佐人は民法13条の規定により、単独で有効に不動産の売買契約を結ぶことはできません。

 この事例の場合、売主側の追認がない限り、買主のBは甲土地を手に入れることができません。その上、取り消されない限りは追認の場合の支払い債務も考えて、代金の準備を欠かすわけにもいきません。買主Bとしては、非常に厄介な状況ですよね。気の毒とも言えます。そこで民法は、このような宙ぶらりんの状態にされた制限行為能力者の相手方に、催告権という救いの手を差し伸べています。

催告権とは

 宙ぶらりんにされた制限行為能力者の相手方は、制限行為能力者側に対し1ヶ月以上の期間を定めて「追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と求めることができます。この権利を催告権といいます。そしてこの催告権は、ただ相手に答えを求めるだけの権利ではありません。そこには法的効果が存在します。そしてその法的効果は、催告をする相手によって変わってきます。
 それでは、催告権の法的効果の違いについて、事例に当てはめて考えていきます。

被保佐人Aに対し催告した場合

 買主Bが、1ヶ月以上の期間を定めた上で被保佐人Aに対し「甲土地の売買契約を追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と催告した場合、まず被保佐人Aは、定められた期間内に、追認するか取り消すかの選択をしなければなりません。ここまでは当たり前のことです。では、定められた期間内に被保佐人Aが返事をしなかった場合どうなるでしょうか?
 この場合、被保佐人Aは甲土地の売買契約を取り消したとみなされます。これが、民法が制限行為能力者の相手方に与えた救いの手、催告権の法的効果です。つまり、買主Bは、催告することによって、自分から宙ぶらりんの状態を脱することができます。なぜ制限行為能力者の返事がない場合、取り消したみなすかといいますと、宙ぶらりん状態の解消はもちろんですが、取り消したとみなす分には制限行為能力者への損害が生じる可能性はないと考えられるからです。元の状態に戻るだけですので。

被保佐人Aの保護者「保佐人」に催告した場合

 では、買主Bが1ヶ月以上の期間を定めた上で、今度は被保佐人Aの保護者の保佐人に対し「甲土地の売買契約を追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と催告した場合は、どうなるのでしょうか?この場合、Aの保護者である保佐人が、定められた期間内に追認するか取り消すかの返事をすることになりますが、もしこのとき、保佐人が定められた期間内に返事をしないとどうなるでしょう?なんとこの場合、保佐人は追認したとみなされます。なぜ保佐人の場合はこのようになるかといいますと、保佐人には通常の判断能力(意思能力)があるからです。通常の判断能力で考えて結論を出せるはずだからです。したがって、買主BがAの保佐人に催告し、期間内に返事がなかった場合は、保佐人は追認したとみなされるのです。

 このように、制限行為能力者の相手方には、催告権という救いの一手が与えられていて、誰に催告するかによってその法的効果は変わってきます。つまり、こういった形で、制限行為能力者の保護と制限行為能力者の相手方の公平をコントロールしているということです。
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制限行為能力者自身が追認できるか

 追認とは、後から追って認める、ということです。例えば、制限行為能力者が単独では有効にならない法律行為をした後、法律で規定された者が、その法律行為を追認することによって、制限行為能力者が単独で行ったその法律行為は有効になります。
 では、追認権を行使できるのは一体誰なのでしょうか?
 民法122条によると「取り消すことができる者」が追認できる者、となっていますが、ここでひとつ問題があります。というのは、もし取消権者=追認権者となると、例えば、子供が単独でした行為を、子供自身で追認することも可能になってしまいます。あるいは、痴呆になって成年被後見人となった老人が単独でした行為を、老人自身で追認することもできてしまいます。それってマズイですよね。

事例
お金持ちのお坊っちゃんの未成年者Aは、自己所有の高級ジュエリーをBに売り渡した。その後、Aはその行為(高級ジュエリーの売渡し)を追認した。


 この事例のようなケースで、仮に次のような文言が入った売買契約書をAB間で交わしていたらどうなるでしょう?

売主Aはこの売買契約を追認する

 もし取消権者=追認権者だから、未成年者自身も追認できるとなると、上記のような契約も可能になってしまいます。となると、法律による制限行為能力者の保護の意味がなくなってしまいますよね。この問題を民法はどう解決するのか?民法では以下の条文で規定しています。

(追認の要件)
民法124条1項
追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。

 これは何を言っているのかといいますと「制限行為能力者が自分自身で追認するには制限行為能力者じゃなくなってからじゃないとダメ!」ということです。条文の「取消しの原因」というのが「制限行為能力者であること」にあたりますので、それが滅した後というのは「制限行為能力者でなくなった後」ということになります。
 従いまして、制限行為能力者が単独した行為を、制限行為能力者自身で追認することはできません。ですので、事例の未成年者Bが、高級ジュエリーの売渡し行為を自ら追認することはできません。もし、Aが自分自身で追認するには、A自身が成年になってからでないとできません。
 尚、未成年者Aの法定代理人が追認することは当然できます。多くの場合、未成年者の法定代理人は親権者(通常は親)なので、Aの親が、AからBへの高級ジュエリーの売渡し行為を追認すれば、それは当然に有効になります。念のため申し上げておきます。

成年被後見人の追認の場合
 成年被後見人の追認の場合は下記の条文に定めがあります。

民法124条2項
成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。

 未成年者の場合は、自らが成年になってからでないと自分自身で追認できないように、成年被後見人は行為能力者となってから、つまり、自らが成年被後見人でなくなって自らの行為を認識してからでないと自分自身で追認できない、ということが上記の条文で規定されています。「行為を了知したとき」というのは「成年被後見人が行為能力者となった後、成年被後見人の時に単独でした自らの行為を認識したとき」ということです。
 尚、民法124条2項は、直接には成年被後見人についての規定ですが、実際には制限行為能力者全般、すなわち未成年者・被保佐人・被補助人にも適用されます。この点も、念のためご注意下さい。

補足
 民法124条1項の規定は「詐欺・強迫」についても適用があります。つまり、騙されたり脅されたりした被害者が、騙されたことに気づいたり脅された状態から脱した後であれば、被害者自身で、詐欺・強迫によってした法律行為を追認できるということです。ちょっと細かい話ですが、一応、頭の片隅に入れておいて頂ければと存じます。
 尚、これは誰がする場合に限らずですが、一度追認した行為は、もはや取り消すことはできません。追認取消しも、できるのは一度までです。そうでないと、法的安定性が損なわれてしまうからです。この点もご注意下さい。
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制限行為能力者の詐術

 制限行為能力の制度に定められた制限行為能力者の単独でした法律行為は、取り消せます。しかし!制限行為能力者がした法律行為でも、取り消せないものがあります。それは制限行為能力者の詐術です。

事例
19歳の未成年者Aは免許証を偽造し、Bと甲不動産の売買契約を締結した。


 さて、この事例で、Aは未成年者(制限行為能力者)ということを理由に、Bと結んだ甲不動産の売買契約を取り消すことができるでしょうか?
 結論。Aは未成年者を理由に甲不動産の売買契約を取り消すことができません。なぜなら、Aは詐術を用いているからです。詐術というのはウソをつくことです。

(制限行為能力者の詐術)
民法21条
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。

 いくら制限行為能力者だからといって、自分は行為能力者であると自ら相手を騙しておいて、後からやっぱり制限行為能力者なので取り消します、なんてことを許してしまうのは信義に反します。よって、自ら詐術を用いた制限行為能力者の行為は、取り消すことができません。
 また、こう考えることもできます。制限行為能力者の保護は、制限行為能力者の判断能力(意思能力)には問題があると考えられるからですが、判断能力(意思能力)に問題がある人間が、自ら考えて詐術を用いることができますかね?むしろ、そこまで考えて実行している時点で、そこまで頭が回っているってことですよね?ということから、制限行為能力者が詐術を使って制限行為能力者ではないと相手を誤信させて行った行為は取り消すことはできない、と考えることもできるのです。

第三者が詐術を用いた場合

 例えば、未成年者自らでなく、第三者が「あいつは成人だから大丈夫だよ」といって相手方が誤信してしまった場合は、どうなるでしょうか?この場合、未成年者自身は何も悪くありません。むしろ、大人っぽい見た目が災いしただけの被害者とも言えるかもしれません。従いまして、このようなケースでは取消権の行使は可能です。民法21条の規定は、あくまで自ら詐術を用いた制限行為能力者に対するペナルティなのです。

補足
 一口に詐術といっても、一体どこまでが詐術となるのでしょうか?判例では以下のように示しています。
「民法21の詐術とは、積極的術策を用いた場合だけでなく、制限行為能力者がその旨を黙秘していた場合でも、他の言動と相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めた場合には、なお詐術にあたる。しかし、単に制限行為能力者であることを黙認したのみでは、詐術にはあたらない」
 判例で何を言っているかといいますと、要するに、制限行為能力者が自分から積極的に詐術を用いていなくとも詐術にあたる場合がある、ということです。例えば、未成年者が「私は成年です」という旨を言わなくても、会話の中で「この前飲みに行った時さ~」みたい事を言っていた場合に、契約の相手方がそれを聞いて「あ、この人は成年なのか」と誤信してしまうこともありますよね。そのようなケースも詐術にあたる可能性があるということです。ただ、単に制限行為能力者であることを黙っていただけでは詐術にはあたらない、ということも「しかし~」の部分で述べられています。例えば、未成年者が未成年年者であることをただ黙っていただけでは、それは詐術にはあたらないということです。この点はご注意下さい。

制限行為能力者 取消権者と取消しの効果

 未成年者や成年被後見人などの制限行為能力者の法律行為には、法律による制限や保護があります。そのひとつに、制限行為能力者が単独で有効にできる法律行為を限定し、もし単独で行ってしまったとしても後から取り消すことができる、という制度があります。
 ところで、制限行為能力者が単独でした法律行為を取り消すことができるのは、一体誰なのでしょうか?それは民法120条により、次のように規定されています。

(取消権者)
民法120条
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

 上記の条文から、制限行為能力者の法律行為を取り消せるのは「本人・代理人・承継人・同意ができる者」となります。
 本人というのは、制限行為能力者本人です。
 代理人というのは、未成年者であれば法定代理人(子供の親など)、成年被後見人であれば成年後見人になります。
 承継人というのは、もっともわかりやすいところだと、相続人がそうです。つまり、承継人が取り消す場合というのは、成年被後見人が法律行為を取り消す前に死亡し、相続人となった息子がその法律行為を取り消す、というようなことです。
 同意ができる者というのは、保佐人・補助人を指すと思って頂いて良いでしょう。つまり、被保佐人が単独でした法律行為を後に保佐人が取り消す、といったことです。

 さて、制限行為能力者が単独でした法律行為を取り消せるのは誰なのかはわかりました。では、実際に取り消した後は一体どうなるのでしょうか?

(取消しの効果)
民法121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 取消しの効果は遡及します。遡及というのは「さかのぼって及ぶ」ということです。つまり、取消しの効果は遡って無かったことになるということです。そして、遡って無かったことになると、後は不当利得の問題になります。
 また、上記の条文の「ただし」の後を読むと、制限行為能力者については、少し異なる規定が置かれています。それは「現に利益を受けている限度」という部分です。これは現存利益のことですが、要するに、民法121条がこのただし書き以降で言おうとしていることは
制限行為能力者の場合、たとえ悪意の受益者であっても、受けた利益を全部返還した上に利息損害金も付ける、という民法704条の適用はない」
ということです。この点においても、制限行為能力者の保護は通常よりも厚くなっているのがわかります(こちらをご覧になって頂いてからだとその意味がよくわかります)。

制限行為能力者は取り消した事を取り消せるか

 なんだかややこしいですが、要するに、制限行為能力者が「この前の取消し、やっぱナシで!」と言えるか、ということです。
 結論は、取消しを取り消すことはできません。そもそも、取消しの取消しなんてことがまかり通ってしまったら、法的安定性が保たれず、世の中が混乱してしまいかねません。それに、取消しが取り消せなくても、おそらく損害が生じることはないでしょう。なぜなら、取り消すと初めから無かったことになり元に戻るだけなので、もし取り消さなければ何らかのプラスがあったとしても、取消しを取り消せなかったところで、ゼロに戻るだけでマイナスはないでしょう。したがって、取消しを取り消すことはできません。
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未成年者の成年擬制とちょっと豆知識

 未成年者の法律行為に制限があるのは、前回の記事でもご説明申し上げましたが、未成年者が結婚した場合はどうなるのでしょう?結婚してもなお、法律行為をする度に親(法定代理人)の合意が必要となると、ちょっと困りますよね。それに、未成年夫婦に子供がいる場合だってあります。
 ということなので、20歳未満でも婚姻(結婚)をした未成年者は、成年とみなされます。これを成年擬制といいます。

(婚姻による成年擬制)
民法753条
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。

「みなす」というのは「同じように扱う」という意味です。つまり、婚姻した未成年者(結婚した20歳未満の人)は、法律上、成年と同じように扱うということです。従いまして、法律的には、未成年者でも結婚すれば一人前の大人として扱われるのです。ですので、早くオトナになりたい!と思っている20歳未満の方は、とっとと結婚するのが手っ取り早いかもしれません(笑)。

離婚したらどうなるのか

 20歳未満の未成年者も婚姻すれば成年擬制により、法律的に成年と同じように扱われます。では、婚姻した未成年者が、20歳に達する前に離婚した場合はどうなるのでしょう?この場合、離婚した未成年者の成年擬制は継続します。離婚すると成年擬制がなくなり、法律的に未成年者に戻る訳ではありません。つまり、一度結婚した未成年者は、たとえ20歳になるまでに離婚しても、法律的には成年のままです。ですので、ずっとコドモでいたい!と思っている20歳未満の方は、結婚したらアウトです(笑)。たとえ20歳未満でも、一度、成年擬制で成年になってしまえば、もはや法律的にはコドモには戻れません。お気をつけ下さい←何を?(笑)

ちょっと豆知識

 将棋の世界で天才中学生棋士が話題になったりしますよね。そして、中学生棋士の臨む対局が深夜に及ぶこともあります。このとき「あれ?」と思われた方、いらっしゃるのではないでしょうか?子供タレントは深夜の番組に出られないのになぜ?と。実はこれには、ちょっとしたカラクリがあります。そのカラクリとは、棋士は「個人事業主」のため問題ないのです。個人事業主は未成年者でもなれます。よって、労働基準法により18歳未満でも禁止されている深夜営業も、個人事業主だから可能ということです。
 じゃあタレントって個人事業主ではないの?
 これがまた微妙な問題で、個別具体的に判断されます。どういう判断かといいますと、「労働者」にあたるか「個人事業主」にあたるかで、労働者にあたる者である場合は、労働基準法の規制を受け、深夜営業は不可になります。ではその「労働者」の定義ですが、これが必ずしも契約形態ではなく、実態で判断されるのです。だから微妙なのです。実際、深夜のラジオ番組に15歳のタレントを出演させたとして、所属プロダクションと放送局の社員が労働基準法違反で書類送検された事例もあれば、1988年に当時まだ未成年者の光GENJIのメンバーは、要件を満たしていないとして、労働者として扱われなかったという事例もあります。
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制限行為能力 未成年者

 未成年者は制限行為能力者です。したがって、未成年者も成年被後見人などと同様に、制限行為能力の制度の保護を受けることになります。ただ、未成年者は成年被後見人などとは大きく異なる部分があります。成年被後見人などは、被保佐人、被補助人と3段階に分かれていて、家庭裁判所の審判を受けて初めてなるものなのに対し、未成年者は、家庭裁判所の審判もなく、20歳未満の者は一律に未成年者となります。
 しかし、一口に未成年者と言っても、非常に幅広いですよね。それこそ赤ん坊から19歳の大学生まで、みんな未成年者です。鼻垂らした小学生もいれば、その辺のオッサンよりよっぽどしっかりした18歳の若者もいます。ですが、法律上では、20歳未満の者は一律に未成年者となります。

未成年者が単独でできること

 未成年者は制限行為能力者です。したがって、未成年者の法律行為は、制限行為能力の制度の制限を受けます。そして、未成年者には法定代理人がつきます。ほとんどの場合、未成年者の親権者(通常は親)が法定代理人となります。つまり、未成年者が単独でできる法律行為とは、法定代理人抜きでできる法律行為ということです。親抜きで子供だけでできる法律行為、と言えばわかりやすいでしょう。
 未成年者が単独でできる法律行為は、以下になります。

・随意処分の許可
法定代理人が処分を許可した財産は未成年者が単独で処分できる
 例えば、親が子供に「洗剤買ってきて」とお金を渡しておつかいを頼んだ場合、子供は単独で洗剤の購入ができますよね。あるいは、目的を定めずに親が子供にお小遣いを渡して、そのお金で子供が単独でお菓子を購入できますよね。これが随意処分の許可です。そして、単独でできるということは、後から「契約を取り消します」とは言えないということです。(相手が子供とはいえ、お菓子程度の買い物で後からいちいち取り消されたらお店側も困ってしまいますよね。店側としては子供が買い物に来たら厄介そうで何も売れなくなってしまいます)
 ということで、随意処分の許可は、未成年者単独でできます。

・営業の許可
 これは、法定代理人が未成年者に営業を許可した場合です。ただし「何やってもイイよ」というような、包括的な営業の許可はできません。例えば、法定代理人が未成年者に雑貨屋の営業を許可すれば、未成年者は雑貨屋の営業ができます。ただし「どんな商売やってもイイよ」というような営業の許可はできないという事です。
 また、営業の許可をするときに、これはイイけどあれはダメ、というような許可の仕方はできません。例えば、雑貨屋の営業の許可をしたなら、販売はOKだけど仕入れはダメ、みたいな営業の許可の仕方はできないということです。なぜなら、そんな営業の許可の仕方ができてしまったら、取引の相手方が困ってしまうからです。

・単に権利を得、義務を免れる行為
 これは、負担のない贈与を受けたり、債務の免除を受けたりとかです。つまり、未成年者に損害を与える可能性のない行為ということです。ただ、ここで気をつけておいて頂きたいことが2点あります。以下の2つの行為は、未成年者が単独で行うことができません。
・負担付贈与
・弁済の受領
 負担付贈与はわかりますよね、負担を負わないと贈与を受けられないということなので、負担の部分が義務になってしまいます。すると「単に権利を得る」行為ではなくなってしまいます。したがって、未成年者が単独で行うことができません。
 弁済の受領というのは、例えば、未成年者が債権を持っている場合に、その債権の弁済を受けることです。なぜそれを未成年者が単独で行えないかというと、その債権が弁済を受けて無くなることで不利益が生じる可能性もあるからです。(債権は売ることもできるし担保にすることもできます。この辺りの詳しい解説はまた別途改めて行います)
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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