土地の工作物の占有者・所有者の責任

事例1
Aは工務店のBと家屋の請負契約を締結し家を建てた。その後、Aは自己所有のその家をCに賃貸した。そしてある日、その家の外壁が崩れ通行人のDが怪我を負った。尚、外壁が崩れた原因は工務店Bの工事の仕方によるものだった。


 登場人物が多くてややこしく感じるかもしれませんが、この事例こそ、今回のテーマである「土地の工作物の占有者・所有者の責任」の典型的なケースになります。
 さて、この事例1で、Dが被った損害の責任を負うのは誰でしょう?
 結論。その第一次的責任はCが負います。
 マジで?
 マジです。なぜなら、Cは原因となった外壁の家の占有者だからです。根拠となる条文はこちらです。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

「工作物」というのは、事例1だと、Cが賃借している家(の外壁)になります。よって、Dの損害の原因となった工作物の占有者のCは、第一次的に責任を負うことになるのです。ただし!占有者Cは責任を免れる方法があります。それが、上記の条文のただし書き以降に記されている「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」になります。
 占有者は、土地の工作物(建物など)により他人に与えた損害の賠償責任を負います。しかし、占有者がその損害の発生を防止するために必要な注意をしていれば、占有者は責任を負いません。事例1に当てはめると、占有者Cは、外壁が崩れるのを何らかの方法で防ごうしていれば、Dの損害を賠償する責任を免れます。逆に、外壁にヒビが入っているのにほったらかしていたような場合は、占有者Cは責任を免れることができません。

占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

 占有者Cが責任を免れたとき、次に責任を負うのは(第二次的責任))家の所有者のAです。この所有者の責任は、なんと無過失責任です。よって、占有者Cが責任を免れたときは、問題の外壁の家の所有者であるAは過失があろうがなかろうが、もはや責任を免れることができません。
 あれ?でも、そもそも外壁が崩れたのは工務店Bが悪いんじゃね?
 そうなんです。ですが、事故の原因となった土地の工作物の所有者Aは、無過失責任を負いますので、Dへの損害賠償からは逃れることはできません。しかし、これだとAがBのミスを肩代わりしたような形ですよね?よって、AはDへ損害を賠償した後、工務店Bに対し求償することができます(求償権についてはこちらの記事もご参照ください)。つまり、所有者Aは工務店Bに対し「Dが被った損害は無過失責任により所有者のオレが賠償した。だがそもそもの事故の原因はBの工事のミスによるものだ。だから肩代わりした損害をオレに賠償しやがれ!」と主張できるということです。

 尚、占有者Cが損害を防止するために必要な注意を怠っていた場合に、CがDへ損害賠償をしたときは、占有者Cは工務店Bへ求償権を行使できます。また、占有者Cが損害の防止に必要な注意をしていた場合に、工務店Bにも過失がなかったときは、所有者Aは無過失責任によりDへの損害賠償を免れられないのはもとより、工務店Bへ求償することもできません。占有者Cにせよ所有者Aにせよ、工務店Bへの求償ができる場合とは、あくまで工務店Bの過失が損害の原因だったときです。念のため申し上げておきます。

求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている

 土地の工作物の占有者・所有者の責任においては、まず占有者が第一次的に責任を負い、第二次的責任で所有者が無過失責任を負います。そして、損害の原因がさらに別の者にある場合は、その者に対し、損害を賠償した者は求償することができます。
 ところで、この仕組み、ややこしいですよね。そもそも、事例1でも、Dがいきなり工務店Bに損害賠償を請求すればいいんじゃね!?と思われる方もいらっしゃるかと思います。実際、それも可能です。しかし、それをするためには、Dが工務店Bの過失を立証しなければならなくなります(通常の不法行為責任の追及)。これは専門家でもないかぎり、実際にはかなり難しいことだというのは、現実的に考えればわかると思います。仮に立証できたとしても、それだけで相当な手間とお金もかかってしまうでしょう。それは被害者にとってはあまりに酷です。というようなことから「土地の工作物の占有者・所有者の責任」は、今回ご説明申し上げたような仕組みになっているということです。従いまして、この「土地の工作物の占有者・所有者の責任」の仕組みは、使用者責任と同様に「被害者が救済されやすくなっている」という事を意識すれば、理解がしやすくなるのではないかと思います。
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注文者の責任

事例1
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。


 今回のテーマは注文者の責任です。
 上記の事例の注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負うのでしょうか?
 結論。注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負いません。第三者Cに与えた損害の責任を負うのは工務店Bになります。
 ただし!注文者Aが責任を負うような場合もあります。

(注文者の責任)
民法716条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

 上記が、注文者の責任に関する民法の条文になります。ただし書き以降の後半部分に、注文者が責任を負う場合についての規定があります。では、どんな場合に注文者が責任を負うのでしょうか?事例で考えていきます。

事例2
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。尚、Bの工事はAの指図によるものだった。


 このような場合は、注文者のAも責任を負ってしまいます。なぜなら、事故が起きた工事は注文者Aの指図によるものだからです。つまり、指図をした注文者Aに過失があり、それが事故の原因と考えられるからです。

事例3
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。尚、事故はAの注文した材料が原因となって起きたものだった。


 このような場合も、注文者Aは責任を負ってしまいます。事故の原因となった材料を注文したのがAだからです。つまり、注文者Aの過失により事故が起こったと考えられるからです。

 以上が、注文者の責任についてになります。基本的には、注文者は責任を負いません。しかし、場合によっては注文者が責任を負う場合があります。イメージとしては「注文者が依頼した工事について、注文者自身がやたらにしゃしゃり出ると、注文者が工事の責任を負うことになる」といった感じです(笑)。ですので、皆さんも工事を依頼する際はお気をつけ下さい(笑)。素人のクセに、中途半端な知識でやたらと余計にしゃしゃり出る人っていますよね。そういう人は、その分痛い目を見ることがあるってことです。
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不法行為責任と債務不履行責任の違い

 今回は、不法行為責任と債務不履行責任の違いについて、ご説明して参りたいと思います。

 不法行為にせよ債務不履行にせよ、損害を受けた者は損害を与えた者に対し損害賠償の請求ができますが、不法行為による損害と債務不履行による損害が、競合する場合があります。

事例
Aは開業医のBによる手術を受けたが、Bの過失により障害を負ってしまった。


 この事例で、AはBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。しかし、こうも考えられます。AとBは「手術をする⇄対価を支払う」という契約関係にあり、BはAに対し、過失なく安全に手術をする契約義務(債務)があります。つまり、Bは過失なく安全に手術をするという債務を履行できなかった、すなわち債務不履行に陥ったと考えられ、AはBの債務不履行による損害賠償の請求もできるということになります。

AはBに対し不法行為と債務不履行、どちらで損害賠償の請求した方がいいのか

 これは状況次第で変わってきます。まず、不法行為と債務不履行の大きな違いのひとつに「加害者と被害者、どちらに立証責任があるか」があります。
 不法行為の場合は、被害者側が加害者の過失を立証して初めて損害賠償が認められます。一方、債務不履行の場合は、加害者が自ら過失がないこと立証できなければ責任を免れることができません。つまり、債務不履行の場合は、加害者(債務者)が債務不履行に陥った時点で、加害者側の過失が推定されてしまうのです。従いまして、不法行為責任を追及するよりも債務不履行責任を追及した方が、必然的に被害者の損害賠償の請求は認められやすくなっています。
 だったら不法行為と債務不履行が競合したときは債務不履行による損害賠償請求一択でいいんじゃね?
 確かに、立証責任の側面から見れば、債務不履行による損害賠償請求の方が、被害者にとっては有利だと思います。しかし、時と場合によっては、不法行為責任を追及した方が被害者が救われやすくなることもあります。それは以下の点などにおいてです。

・消滅時効期間
・加害者が履行遅滞になる時期
・加害者からの相殺
・過失相殺
・過失相殺によら加害者の責任免除

 それでは上記の点をひとつひとつ見ていきましょう。

・消滅時効期間
(不法行為責任)
損害および加害者を知ってから3年または行為時から20年
(債務不履行責任)
10年
 例えば、債務不履行による損害賠償の請求権が11年経っていて時効消滅していたとしても、不法行為による損害賠償の請求なら可能、という状況もあるのです。

・加害者が履行遅滞になる時期
(不法行為責任)
不法行為時
(債務不履行責任)
請求時
 例えば、「いつまで」という期限の定めがない債務不履行の場合は、請求して初めて相手が履行遅滞に陥るのに対し、不法行為の場合は、不法行為があった瞬間から加害者は履行遅滞に陥ります。(履行遅滞に陥ると遅延損害金が発生する可能性など)履行遅滞になる時期が早ければ早いほど加害者側が不利になります。

・加害者からの相殺
(不法行為責任)
できない
(債務不履行責任)
できる
・過失相殺
(不法行為責任)
任意的
(債務不履行責任)
必要的
・過失相殺による加害者の責任免除
(不法行為責任)
不可
(債務不履行責任)

 上記3つは(過失)相殺についてになりますが、これらについては、状況によらず完全に不法行為責任の方が方が重くなっています。よっぽど被害者側にも過失がないかぎり、加害者側の主張は、ほぼ通らないと言ってもいいかもしれません。裁判所が加害者の主張を聞いて事案を検証し、任意で過失相殺をする可能性はありますが、あくまで裁判所の任意です(つまり裁判所次第ということ)。

 という訳で、不法行為責任と債務不履行責任の違いについてまとめました。被害者側からすると、立証責任においては債務不履行が被害者有利で、立証さえできれば不法行為が被害者有利、と考えるとわかりやすいと思います。
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使用者責任 使用者の求償権

 今回は、使用者責任における使用者の求償権について、ご説明して参ります。
 まずは一度、こちらの条文をご覧下さい。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 今回、注目して頂きたい箇所は、3項の「使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」という部分です。ここがまさに今回のテーマである、使用者責任における「使用者の求償権」を定めているところになります。

使用者の求償権とはなんぞや

 使用者は、使用者責任に基づいて被用者(従業員)の事業の執行の範囲内の不法行為の責任を負い、被害者の損害を賠償しなければなりません。これは「使用者は被用者(従業員)の働きにより利益を上げるが、であるなら同じように被用者(従業員)のもたらす損害も負担すべきだ」という理屈に基づいています。しかし、使用者責任というのは、あくまで代位責任だと通説では考えられています。どういうことかといいますと、本来、不法行為の損害賠償の責任は加害者自身が負うところを、加害者の使用者が加害者に代わってその責任を負う、ということです。となると、本来、加害者自身が負わなければならない不法行為の損害賠償の責任を、使用者はあくまで加害者である被用者(従業員)に代わって負っただけなので、いわばその肩代わりした損害について、使用者が被用者(従業員)に対し「元はおまえがやらかしたことだ。だからおまえは会社(使用者)に賠償しろ」と主張する権利も認められてしかるべきです。その権利が求償権です。つまり、その権利(求償権)が民法715条3項で定められているのです。
 以上のことを踏まえて、こちらの事例を見てみましょう。

事例10
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 この事例10で、加害者Bの使用者である甲タクシー会社は、使用者責任により被害者Aの損害賠償の責任を負います。しかし、甲タクシー会社は被害者に損害を賠償した後、「元はBがやらかしたことだ。だからBは甲タクシー会社に賠償しろ」と民法715条3項に基づいて、Bに対し求償権を行使できるのです。

求償権の範囲

 では、使用者は被用者(従業員)に対し、どこまで求償できるのでしょうか?それについて、民法の条文には規定がありません。従いまして、使用者は被用者(従業員)に対し、全額の求償ができると考えられています。つまり、事例10の甲タクシー会社は、Bに対し、Aに賠償した金額の全額を求償できるということです。しかし!例えば、このような場合はどうでしょう。Bが起こした事故が、常態化した甲タクシー会社の過酷な労働も原因となり起こったものだったとしたら...。このような場合、判例では、使用者の求償に制限を持たせています。では、具体的にどの程度の制限を加えるのか?ですが、それについては事案ごとによって異なりますので、一概にこれだと申し上げることはできません。従いまして、ここで覚えておいて頂きたいのは、「使用者は被用者(従業員)に対し損害の全額を求償できる。しかし、場合によって求償の範囲(金額)は制限される」ということです。

 この求償という仕組み。初めはややこしく感じるかもしれません。わざわざ使用者が肩代わりした後に被用者(従業員)に求償するぐらいなら、ハナっから被用者(従業員)、つまり、加害者自身が賠償すればいいじゃん!と思うかもしれません。しかし、このような一連の使用者責任の仕組みが、被害者を救済しやすくしています。被害者側からすれば、使用者が賠償しようが加害者自身が賠償しようが、損害を賠償してくれさえすればイイわけですが、損害賠償の請求をより確実にするためには、加害者側の資力の問題、すなわち賠償金を確実に回収できるかという問題と、立証責任(詳しくは前回の記事へ)の2点において、使用者責任の仕組みが被害者側に有利に働くのです。この「被害者が救済されやすくなっている」というところを意識すると、使用者責任の仕組みが理解しやすくなると思います。
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使用者責任 社長個人は責任を負うのか

事例10
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 この事例10において、被害者のAは、使用者責任に基づいて、加害者のBの使用者である甲タクシー会社に損害賠償の請求ができることは、前回前々回もご説明して参りました。さて、ここでまた、使用者責任に関する条文を確認します。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 今回、注目して頂きたい箇所は2項です。そして、その2項に記されていることこそ、今回のテーマである「社長個人は使用者責任を負うのか」についての規定になります。

甲タクシー会社の代表取締役の社長は社長個人として使用者責任を負うのか

 民法715条2項には「使用者に代わって事業を監督する者」も、使用者責任を負うと記されています。ではその「使用者に代わって事業を監督する者」とは、具体的にどのような者を指すのでしょうか?それは「加害者である被用者(従業員)に直接の指示を出す立場にある人」を指します。これは、加害者の直属の上司と考えるのが妥当です。すると、事例10の場合、Bの直属の上司も使用者責任を負う可能性があるのです。
 以上のことを踏まえて、今回のテーマである「社長個人は責任を負うのか」について考えていきますと、こうなります。

社長が加害者に直接業務の指示を出しているような場合は社長個人も使用者責任を負う可能性があり
社長が加害者に直接業務の指示を下すことがないような場合は社長個人が使用者責任を負う可能性はまずない


 これを事例10に当てはめると、このようになります。

甲タクシー会社の社長がBに直接指示を出しているような場合は、甲タクシー会社の社長個人使用者責任を負う可能性があり、そうでない場合は、社長個人は使用者責任を負わない

 小さい会社では、社長が現場の従業員に直接指示を出すことは、よくあることだと思います。反対に大会社では、社長が現場の従業員に直接指示を出すことは、中々ないと思います。ですので、小さい会社等で社長自身が現場の従業員に直接指示を出しているような場合は、現場の従業員の不法行為の責任を社長個人が使用者責任として負い、被害者の損害賠償の請求に応じなければならない事態もありうるのです。人間は立場に比例して責任も重くなるということです。肝に銘じておかなければなりませんね。

 という訳で、今回は以上になります。次回も、使用者責任について解説して参りますが、ここまでで十分に、使用者責任の重さは理解できたのではないかと存じます。そして、使用者責任は被害者の保護に厚いこともおわかりになったかと思います。
 いやはやしかし、人を雇って事業を経営をするということは大変なんですね。それはこの使用者責任の問題からも垣間見ることができます。
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使用者責任は重い 事業の執行の範囲・使用者の主張(立証責任)

事例10
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 この事例10では、被害者のAは、Bに対してだけではなく、Bの使用者たる甲タクシー会社に対しても、使用者責任に基づいて損害賠償の請求ができます。ただし!それには加害者のBの起こした交通事故、つまり、Bの不法行為が甲タクシー会社の事業の執行として行われたと認められなければなりません。

行為の外形

 判例では、事業の執行にあたるかどうかは、行為の外形から判断するとしています。では、行為の外形で判断するとは、どういうことなのでしょうか?
 例えば、Bが業務中に起こした事故であれば、それは当然、事業の執行にあたるでしょう。そして、Bが休日中にドライブしていて起こした事故であれば、それは事業の執行としては認められないでしょう。では、Bが休日中にタクシーを運転して起こした事故はどうでしょう?この場合は、事業の執行として認められてしまい甲タクシー会社に使用者責任が生じる可能性があります。なぜなら、行為の外形で判断されるからです。甲タクシー会社としては「Bが休日中に勝手にタクシーを運転してやらかしたことだ!弊社の業務とは関係ない!」と言いたいところでしょう。しかし、客観的に見たらどうでしょうか。たとえ加害者のBが、休日中に甲タクシー会社の業務とは何ら関係なくやらかしたことだとしても、甲タクシー会社に勤めるBがタクシーを運転している時点で、はたから見れば、甲タクシー会社の業務に見えてしまいますよね。これが、行為の外形で判断するということです。
 このように、使用者責任においては、被害者側の損害賠償が認められやすくなっています。同時に、使用者責任の重さもわかりますね。ちなみに、ヤ〇ザの暴力事件につき組長の使用者責任を認めた、なんて判例もあります。これもある意味、使用者責任の重大さを物語っていますよね(笑)。

使用者が主張できること

 加害者の使用者は使用者責任を負い、被害者は加害者の使用者に損害賠償の請求ができます。では、使用者は何かしらの主張をして責任を免れることはできないのでしょうか?まずは一度、民法の使用者責任に関する条文を確認してみましょう。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 実は、使用者は「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」を主張立証すれば、責任を免れることができます。つまり、事例10で、甲タクシー会社が、Bの選任及びその事業の監督について相当の注意をしたこと、又は相当の注意をしてもBの交通事故による損害が生ずべきであったことを主張立証できれば、責任を免れることも可能だということです。使用者責任は無過失責任ではありませんので、使用者に免責される可能性が残されているのです。しかし!使用者責任は、通常の不法行為責任よりも被害者側に有利になっています。

立証責任の転換

 通常の不法行為責任であれば、被害者側加害者の過失を立証して損害賠償の請求ができるのに対し、使用者責任では、加害者側(使用者側)が自らの過失がなかったことを立証しなければ責任を免れることができません。つまり、通常の不法行為責任と比べて、使用者責任では立証責任の転換が図られているのです。簡単に言えば、通常の不法行為責任よりも、使用者責任の方が被害者が救済されやすくなっているということです。このことからも、使用者責任の重さが理解できますよね。
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不法行為の使用者責任の超基本

事例10
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 さて、この事例10で、被害者のAは加害者のBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができるのは当然ですね。さらに、Aができることはそれだけではありません。AはBの勤める甲タクシー会社にも損害賠償の請求ができます。これが今回のテーマである使用者責任です。
 使用者とは、簡単に言うと雇い主のことです。つまり、使用者責任というのは雇い主の責任です。事例10で言えば、Bの使用者は甲タクシー会社で、甲タクシー会社はBが業務上行ったことについて責任を負います。これが使用者責任です。
 従いまして、Bが業務上に起こした損害についての責任は、Bの使用者である甲タクシー会社も、使用者責任として負うことになります。ですので、Aは甲タクシー会社に対しても損害賠償の請求ができるのです。

使用者に対して損害賠償の請求ができるメリット

 てゆーかフツーにBに直接損害賠償の請求すればよくね?
 もちろん、加害者本人に直接損害賠償の請求をしても全然かまいません。しかし、もし加害者本人に資力がなかったら、つまり、加害者本人に損害を賠償できるだけのお金がなかったらどうしましょう?そうなると、被害者としては困ってしまいます。しかし、使用者はどうでしょう。普通に考えて、少なくとも加害者個人よりかは資力があるはずです。すると、被害者としては使用者に損害賠償請求をした方が、賠償金の回収はより確かなものになるのです。
 ただし!使用者責任を追求する場合には注意点があります。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 上記の条文が、使用者責任についての民法の規定になります。ここで注意しなければならないポイントが「事業の執行について」という部分です。「事業の執行」とは「業務上」ということです。つまり、使用者責任はあくまで業務上で起こした損害についての責任を負うわけであって、例えば、事例10のBが休日中に自家用車で事故を起こした際の損害は、甲タクシー会社は使用者責任を負いません。なぜなら、Bが休日中に自家用車で起こした事故と甲タクシー会社の事業の執行とは何の関係もないからです。ですので、不法行為の被害者が加害者の勤め先に対し、使用者責任に基づいた損害賠償請求が認められるためには、加害者の不法行為が事業の執行の中で行われたと認められなくてはなりません。
 さて、そうなると今度は、こんな問題が生じます。
 一体どこからどこまでが事業の執行なのか?
 という訳で次回、その問題についてご説明して参ります。加えて、損害賠償請求をされた使用者が主張できることはなにか?についても、あわせて解説して参りたいと存じます。
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被害者の家族と胎児の損害賠償請求権 全部露出説と停止条件説

事例9
AはBの過失により大怪我を負った。AにはCという妻がいる。


 またざっくりとした事例でスイマセン(笑)。この場合、AがBに損害賠償の請求ができるのは不法行為責任の基本ですが、被害者のAの配偶者であるCが、加害者のBに損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。被害者のAの配偶者であるCに財産上の損害が生じたとき、Cは加害者のBに対し、Aの分とは別に配偶者自身の損害賠償の請求ができます。Cに財産上の損害があれば、CはCとして、Bに対し損害賠償の請求ができるということです。
 ん?財産上の損害ってことは、財産以外の損害、つまり慰謝料の請求はできないの?
 これがちょっと微妙な問題なんです。条文では次のように規定されています。

(近親者に対する損害の賠償)
民法711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

 この条文を見る限りでは、被害者のAの配偶者であるCには、慰謝料の請求は認められなそうです。なぜなら、Aの生命の侵害はない、つまりAが死亡した訳ではないからです。しかし!判例ではこの「生命の侵害」をもう少し幅広く捉え、「死亡の場合に比肩し得る精神上の損害」にも、慰謝料の請求を認めています(顔面に大怪我を負った子供の母親に慰謝料請求権を認めたという判例がある)。したがって、配偶者Cの、加害者Bへの慰謝料の請求は、認められる可能性はあります。
 さらに付け加えて申し上げておきますと、判例では「父母、配偶者及び子」という部分も、もう少し幅広く解釈しております(死亡した被害者の同居の妹に、妹自身の慰謝料請求権を認めた。妹は死亡した兄の介護を受けていた)。

胎児の損害賠償請求権

 ところで、人間はいつ権利能力を取得するのでしょうか?いきなり哲学的な話をする訳ではありませんよ(笑)。実は、この問題の結論が、不法行為の問題にも絡んでくるのです。例えば、まだ母親のお腹の中にいる胎児Aが産まれる以前に、父親が他人の不法行為で死亡したとき、母親は加害者に対する損害賠償請求権を得ます。ここまでは当然の話ですよね。そして実は、胎児Aも加害者に対する損害賠償請求権を得ます。

権利能力の始期

 民法上の人間の権利能力の始期は、出生とされています。つまり「おぎゃー」とこの世に生きて産まれてきた時に、権利能力を取得するのです。もっと厳密に言うと、母親の体から赤ん坊の全身が出てきた時に、その赤ん坊は権利能力を取得します(これを全部露出説といいます。ちなみに刑法では体の一部が出てきた時に権利能力を取得するという一部露出説を取ります)。そして、死亡した時が権利能力の終期です。
 ん?じゃあ胎児が損害賠償請求権を得るっておかしくね?
 確かに矛盾していますよね。民法では以下の3つの権利については、例外的に胎児でも取得するとしています。

・不法行為に基づく損害賠償請求権
・相続※
・遺贈※

※相続と遺贈については家族法分野で詳しく解説いたしますのでここでは割愛します。

 さらに申し上げますと、厳密には上記3つの権利も、胎児の時にはいわば仮のような状態で、この世に出生した瞬間に正式に取得するとしており、これを停止条件説といいます。つまり「この世に生きて産まれてくること」が条件となり、その条件が満たされた瞬間に権利能力を取得するということです。一方、胎児の時からも正式に権利能力を取得して、もし死産になった時は権利能力は失われる、とする解除条件説という考えもありますが、判例は停止条件説を取ります(民事)。
 停止条件説ってややこしくね?
 確かにややこしいですよね。ではなぜ、判例が停止条件説を取るのかといいますと、胎児の時から正式に権利能力を取得するという解除条件説だと、胎児の代理人が成り立ってしまうからです。代理人が成り立ってしまうということは、胎児の損害賠償請求権を、胎児が生きて産まれてくる前に代理人が行使できてしまいます。したがって、解除条件説だと、胎児の権利を奪いかねないのです。なので、理屈としてはややこしいですが、判例は停止条件説を取るのです。

 という訳で、今回は以上になります。次回は、不法行為の使用者責任について解説して参ります。
 尚、後半に停止条件と解除条件という言葉が出てきましたが、民法における条件というものについては、別途改めてご説明いたします。
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過失相殺 責任能力と事理弁識能力

 今回は、不法行為の過失相殺における、事理弁識能力についてご説明して参りたいと思います。

事例5
小学三年生のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり怪我を負わせた。


 さてこの事例5で、スピード違反という過失のあるAの不法行為が成立し、BはAの不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。ここまでは何の問題もないですよね。しかしこの場合、Aはきっとこう主張するはずです。
「確かにオレにはスピード違反という過失がある。そしてBに怪我を負わせた。たがBにも急に飛び出してきたという過失があるじゃないか!だから過失相殺が認められるはずだ!」
 この主張は、決してAの往生際が悪い訳ではなく、正当なものです。という訳で、さっさとますは結論を申し上げます。事例5において、裁判所が過失相殺をすることは可能です(任意相殺)。裁判所が過失相殺することは可能ということは、事案ごとに判断されるということです。いずれにせよ、事例5では、過失相殺される可能性はあるということになります。実際にAの主張が認められるかどうかは、事案を検証して裁判所が決めるということです。
 え?てゆーかそもそも小学三年生のBには責任能力がないから過失も認められないんじゃないの?
 ごもっともな指摘です。しかし、過失相殺において被害者側に問われる能力は、不法行為が成立するための責任能力ではなく、事理を弁識する程度でよいとされています。この事理弁識能力は、小学校入学程度で認められます。従いまして、小学三年生のBには事理弁識能力が認められ、Bに事理弁識能力が認められるということは過失も認められるので過失相殺の可能性があるということになるのです。

事例6
3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり怪我を負わせた。


 この事例6の場合、過失相殺はどうなるでしょうか?
 結論。この場合はBの過失が認められず、過失相殺は認められません。なぜなら、3歳児のBには事理弁識能力がないからです。
 事理弁識能力、おわかりになりましたよね。

事例7
親権者の不注意により3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり、怪我を負わせた。


 この事例7の場合は、Bの親権者の過失があります。このときは、Bの親権者の過失が被害者側の過失として過失相殺の対象になります。

事例8
保育士の不注意により3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり、怪我を負わせた。


 この事例8の場合、保育士の過失は被害者側の過失とは認められず、過失相殺の対象にはなりません。被害者側の過失とは、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失、とされています。保育士はそれに当てはまらないのです。また、もし保育士の過失が被害者側の過失と認められてしまうと、子供の親が困ってしまいます。なぜなら、保育士の過失によって損害賠償の金額が減ってしまうからです。ただ自分の子供に怪我を負わされた親としては「そんなのたまったもんじゃない」となる訳です。

 それでは最後に、責任能力と事理弁識能力について簡単にまとめます。

責任能力12歳程度で、事理弁識能力小学校入学程度不法行為責任が生じるには責任能力が必要で、過失相殺の対象となる被害者の過失として認められるには事理弁識能力で足りる

 このようになります。この違い、お気をつけ下さい。
 次回もまた別の事例を用いて、不法行為について解説します。
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不法行為 責任能力ある未成年

事例4
Aは中学三年生のBの過失により大怪我を負った。


 さて、この事例4で、AはBに不法行為責任を追及して、損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。AはBに不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。なぜなら、中学三年生のBには責任能力があるからです(責任能力については前回の記事をご参照下さい)。責任能力のある中学三年生のBは、損害の賠償義務を負います。

中学生に損害を賠償できる資力があるのか?

 ここでひとつ問題があります。果たして、まだ中学三年生のBに損害を賠償できるだけの資力、つまりそれだけのお金があるのか?という問題です。もし、Bがお金持ちのお坊ちゃんで毎年お年玉で100万はもらっている、みたいな感じなら、たとえBが中学三年生でも損害を賠償できるだけの資力があるかもしれませんが、そんなの極めてマレですよね。すると、そんなマレなケース以外の場合、つまり通常のケースにおいては、被害者は困ってしまいます。そこで判例では
「被害者が親権者の監督義務違反とそれにより損害が生じたという一連の因果関係を立証すれば、被害者は親権者に対して損害賠償の請求ができる」
としています。
 従いまして、事例4でAは、中学三年生のBの不法行為は、Bの親権者(通常は親)の監督義務違反によって起こり、それが原因となってAは損害を被ったということを立証できれば、AはBの親権者に対しても損害賠償の請求ができます。

補足
 民法において、未成年は特別扱いされます。それは、未成年を保護するためです。ですので、一連の事案に未成年が絡んでくると厄介なのです。例えば、大人同士であればフツーに有効な契約も、未成年が相手だと無効になったりあるいは違法になったり。未成年に関する問題は民法の学習においても重要で、それについては、別の回にまた改めて詳しく解説して参ります。

 尚、事例4でAにも過失があれば、それは過失相殺として考慮され、損害賠償の金額に影響する可能性があります。
 ところで、前回と今回と、事例とともに未成年の子供の不法行為について見て参りましたが、逆に成人である大人が未成年の子供に不法行為をしてしまった場合、被害者側の、つまり、未成年側の過失は考慮されるのでしょうか?
 ということで次回、過失相殺と被害者の弁識能力について、ご説明して参ります。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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