不動産登記は早い者勝ち?

 不動産の物権(所有権)は、登記をすることによって法律で保護されます。したがって、不動産は登記をしないと実質、所有権を取得したとは言えません(対抗要件を備えていないので)。これは、前回の記事でもご説明いたしました。それではこのことを踏まえて、まずはこちらの事例をご覧下さい。

Aは自己所有の土地をBに売却した。しかし、Bは登記をせず土地の名義はA名義のままだった。その後Aは自己名義のその土地を悪意のCに売却しCは登記を備えた。(登記を備えた、というのは登記をしたということ)

 さて、この場合、土地の所有権を取得するのは誰でしょうか?
 正解はCです。
 え?Cは悪意なのに?
 はい。悪意なのに、です。
 Bがかわいそう!
 確かにBは可哀想です。しかし民法は、ボサッとしていたBが悪い、と考えます。そうです。民法は、取引の安全性を重視してトロイ奴に冷たいのです。したがって、この事例の場合は、悪意であろうとCが勝ってしまいます。
 では、条文を確認しましょう。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 上記の条文によると「第三者に対抗することができない」とありますが、善意悪意については何も書いていませんよね?つまり、第三者の善意悪意は問わないということなのです。
 従いまして、不動産の登記については、噛み砕いて言ってしまうと「早く登記したモン勝ち!」なのです。

悪意の第三者の補足

 先述の事例で、Cは悪意であるにも関わらず土地の所有権を取得しました。なぜなら、不動産登記の世界は、民法177条の規定により登記したモン勝ちだからです。
 民法の言い分も分かるけど...ボサッとしていたとはいえやっぱりBがかわいそう
 はい。気持ちはよくわかります。しかし、こう考えてみて下さい。民法において悪意というのは「事情を知っている」という意味でしたよね。とすると、Cが「Aが色んな事情をなんとかしてくれて売ってくれるんだな」と思って、取引に入って来ていたとしたらどうでしょう。確かにCは「事情を知っている」という点で悪意ですが、悪人という訳ではありませんよね。このように考えていくと、悪意のCの取引に対する信用を保護する必要性がありますよね。
 まあでも、結局、先述の事例で一番のワルはAなんですよね(笑)。ですので、気の毒なBが現実としてできることは、諸悪の根源のAに対し損害賠償を請求する、ということになります。ただ、それがどんな結果になろうと、登記を備えたCの土地の所有権は揺るぎません。
 尚、Cが背信的悪意者の場合は、たとえ登記を備えようが、Cは土地の所有権を取得できません。背信的悪意者とは、合法的なとんでもないワルと思って下さい。つまり、第三者があまりにも悪質であれば、それはさすがにトロイ奴には冷たい民法も認めませんよ、ということです。
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不動産登記の超基本

 当サイトでも何度も登場している、不動産の「登記」。今回は今一度「登記」、加えて「物権」というものについて、ご説明申し上げたいと存じます。 
  ところで皆さん、登記というものについては、おわかりになりますでしょうか。

 土地や建物といった不動産は、登記をすることによって所有権を取得します。この所有権とは、物権です。物権とは、物を排他的に支配する権利です。排他的に支配する権利とは、噛み砕いて言うと「他人を蹴散らして堂々とワタシのモノだ」言って所有・使用する権利です(ちなみに民法の世界では、を「モノ」ではなく「ブツ」と読みます。なんだか怪しい読み方ですが(笑)。民法ではそのようになっております)。
 不動産は、登記をしなければ所有権という物権を取得し、排他的に支配することができません。いや、厳密に言えば、登記をしなくても所有権を取得する事はできるので、もう少し正確に申し上げると、不動産は登記をする事によって、所有権という物権法律で保護されるのです。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 上記の条文で「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」とあります。物権(所有権)を取得できないとは書いていません。第三者に対抗できないと書いています。
 第三者に対抗できない?
 要するに、法律上登記をしなければ他人(第三者)に所有権(物権)を主張(対抗)できないということです。法律上主張できないという事は、法律で守ってもらえないということです。法律で守ってもらえないという事は、実質、所有権(物権)を取得できないのと変わりませんよね。この土地はワタシのモノだ!と堂々と言えないって事ですから。結婚していない彼女を「オレの嫁だ!」と言えないのと一緒です(笑)。結婚していない彼女のお父さんに「おとうさん」と言っても「オマエのおとうさんになった覚えはない!」と言われてしまうのと一緒です(笑)。しかし、結婚すれば法律上認められた家族になります。彼女のお父さんとも法律上の姻族関係になります。堂々と「お義父さん」と言えるのです。話は逸れましたが、この辺りの家族関係に関しては後々、家族法分野で詳しく解説いたします。
 尚、不動産登記をして所有権という物権が法律で保護されている状態を、対抗要件を備えるといいます。対抗要件とは、第三者に正当な権利を主張(対抗)するための要件です。

公示の原則

 不動産の登記のルールは、公示の原則に従って定められたものです。公示の原則とは、「排他的な権利変動は客観的に認識できる形で権利関係を公に示すべき」という原則です。もう少し噛み砕いて分かりやすく言うと、「物の権利関係他人から見てわかりやすい形にしよう」という事です。それを不動産の場合は、登記という画一的なルールにより行っているのです。
 
 以上、不動産の物権(所有権)における登記というものについて、ご説明申し上げました。こんなこと資格試験なんかにはあんま関係ないんじゃね?と思われる方もいらっしゃると思います。確かにそうなのですが、この辺のことをしっかり押さえておくと、後々民法の学習を進めていくにあたり、内容の頭の入り方が違ってきます。よりすんなり頭に入りやすくなるのです。加えて、社会のルールの基本として、頭の片隅に入れておいて頂く分に損もないと思います。ただ、民法の学習を急いでいる方は、飛ばしてしまってもかまいません。
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通謀虚偽表示 取引の安全性と利益衡量

事例
AとBは通謀して、Aの資産隠しのためにA所有の土地の名義をBに移した。その後、Bはその土地を善意のCに売却した。


 さて、上記事例に「通謀」という言葉が出てきました。「AとBは通謀して」というのは、AとBは共犯者ということです。つまり、上記の事例の前半は「AとBが共犯してAの資産隠しのためにA所有の土地をウソの取引でB名義に移した」という意味になります。このような行為を、通謀虚偽表示といいます。
 通謀虚偽表示についての民法の規定はこちらです。

(虚偽表示)
民法94条
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする

「相手方と通じてした虚偽の意思表示」というのは、通謀虚偽表示のことです。従いまして、冒頭の事例のAB間の取引は、通謀虚偽表示にあたり無効になります。
 さて、では冒頭の事例で何が問題になるかというと、善意のCがどうなるのか?です。
 AB間の取引は通謀虚偽表示により無効です。そして、無効のものはハナっから成立していません。無効のものはどこまでいってもゼロです。そうなると、AB間の取引の存在が前提のBからCへの土地の売却も、ゼロのままのはずです。無から有は生じません。しかし!民法94条には続きがあります。

(通謀虚偽表示)
民法94条2項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

 つまり、冒頭の事例の場合、善意のCは土地を取得できるということです。Cは登記を備える必要もありません。登記がなくても取得できます。
 AB間の通謀虚偽表示による取引は無効です。しかし、.その無効は善意のCには対抗できないのです。

時に原則を破る民法

 無効のものはハナっから成立しません。これは大原則です。しかし、通謀虚偽表示の無効は、善意の第三者が現れたときにはその大原則を破り、善意の第三者のために取引が実体化します。これは、現実の要請によるところだと思います。もし無効の原則に従って、冒頭の事例の善意のCが土地を取得できないとなると、共犯で悪いことをしたAとBを保護してしまう事になる上、民法が重視する取引の安全性も阻害してしまいます。また、利益衡量の観点からも、かなりバランスの悪い結果になってしまうのです。

利益衡量

 利益衡量とは、利益をはかりにかける、という意味です。民法は、各当事者それぞれの利益を公平にはかりにかけて、それを考慮した上で結論を出します。つまり、冒頭の事例のようなことが起こってしまった場合、民法は94条2項により無効の原則を破ってでも、取引の安全性利益衡量を重視して、善意の第三者を保護することにしたのです。
 ちなみに、今回の事例のCのような、通謀虚偽表示における善意の第三者に、無過失は要求されません。過失があっても保護されます。つまり、今回の事例の善意のCは、自分に多少の落ち度があっても保護されます。それだけ、通謀虚偽表示を行った連中に民法は厳しいということです。※
※念のため補足しておきますが、善意というのはあくまで事情を知らないということで、過失(落ち度、ミス)の有無とは関係ありません。ですので、善意有過失という状態も存在します。

民法についての理解を深めるため

 今回の結果に?マークが付いてしまった方、いらっしゃるかもしれません。真面目な方ほど?マークが付いてしまうかもしれません。民法を考えるときは、まず原則からです。しかし、時に民法はその原則を破ります。それは、例外とはまた違う形で、です。ですので、今回出てきた民法94条2項も、半ば強引にでも理解して下さい。学習を進めていけば、不思議と、やがて腑に落ちるようになりますので。
 以前の記事で、民法は「取引の安全性を重視する」「トロイ奴に冷たい」という特徴があると記しましたが、これに、今回ご説明申し上げた「利益衡量」を加えます。それらを意識すると、民法の理屈が頭に入り易くなると思います。
 民法の特徴を、再び下記に記します。

取引の安全性を重視する
トロイ奴に冷たい
利益衡量


 上記の事が感覚的に掴めた時、すでにリーガルマインドが身についていると思います。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。
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取消後の詐欺

 詐欺による契約は取り消せます。しかし、善意の第三者には対抗できません。では、取り消した後に第三者が登場した場合は、どうなるのでしょうか?

そもそも契約を取り消すとどうなるのか

 契約を取り消すと、その契約はゼロに戻ります。つまり、売買契約を取り消した場合は、売った側は相手にお金を返し、買った側は買った物を相手に返す、という事になります。契約する前の元の状態に戻るのです。それはつまり、その契約はなかった事になるのです。このように遡って効力を生ずる効果を遡及効といいます。遡求とは、遡る(さかのぼる)という意味です。
 以上、まとめますと、取消しによる効果は取消しの遡及効により遡って初めから無かった事になる、ということです。
 取消しについては、これで大丈夫かと思います。それでは、以上の事をふまえて、本題の「取消後の詐欺」について、ご説明して参ります。

取消後に悪意の第三者現る

 詐欺による取消しは、善意の第三者(事情を知らない第三者)に対抗できません。冒頭に申し上げたとおりです。ところで、実はこの規定、取り消す前に第三者が現れた場合の話なんです。という事は、次のような事例の場合は、一体どうなるのでしょう。

事例
AはBに土地を売却しその旨の登記をした。しかし、この売買契約はBの詐欺によるもので、Aはこの売買契約を取り消した。その後、Bはその土地を悪意のCに売却しその旨の登記をした。


 上記の事例では、、取消後に第三者のCが現れました。しかも、Cは悪意です。悪意とは、事情を知っているという意味です。では、この事情を知っている悪意のCは、果たして土地の所有権を取得できるのでしょうか?
 結論。悪意のCは土地の所有権を取得できます。
 え?悪意なのに?
 はい。そもそも取消後においては、第三者の善意・悪意は問われません。

取消後はさっさとしろ!

 先の事例の場合、民法はこう考えます。
「取消後にAがさっさと登記をしなかったのが悪い」
つまり、悪意のCよりも取り消してからボサっとしていたAがの方が悪いと、民法は結論付けるのです。これは、取引の安全性を重視する民法の考えからでしょう。
 ちなみに、この結論は強迫の場合でも一緒です。
 マジで?
 マジです。それだけ取り消してからボサっとしていたAには厳しいんです。ボヤボヤしていたAにも落ち度があるといはいえ、Aにとってはちょっと酷ですが、基本的に民法は、トロイ奴に冷たい傾向にあります。厳しい言い方になるかもしれませんが、これも自立した契約社会においての自己責任なのでしょう。

補足

 さて、ここで賢い方は、こんな疑問を抱いたのではないでしょうか。
 取消しの効果は遡及するからAが取り消した時点でBからCに土地を売ること自体できないことなんじゃないの?
 そのとおりです。正しい指摘です。取り消した時点で契約は遡って無かったことになりますから、本来、AB間の売買契約があった上で成り立つBC間の売買契約と権利移動はありえないんです。しかし、民法は「取引の安全性重視だ!」と強引にねじ伏せます。そして裁判官もそれに従います。ということなので、ここは敢えてその指摘はシカトして下さい。この強引な理屈を受け入れて下さい。でないと試験に受かりません(笑)。学説は様々あるかと思いますが、当サイトではこれ以上の深い入りは致しません。
. 私も民法に負けず強引にまとめますが、とりあえず民法「取引の安全性を重視する」ことと「トロイ奴に冷たい」ということを、頭に入れておいて頂ければと存じます。
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強行法規と任意法規

 以前の記事で、無効と取消しについて解説いたしました。今回はそれに付け加える形で、強行法規任意法規というものについて、ご説明して参りたいと思います。
 さて、いきなり強行法規と任意法規と言われても、何が何だかって感じですよね。実際、一般的に馴染みもない言葉だと思います。しかし、法律について考えるとき、この強行法規と任意法規というものは非常に重要なのです。なぜ重要かと申しますと、実際にその法律が我々にどういう効果をもたらすか、という問題に直結するからです。
 え?それヤバくね?
 はい。ヤバいです。ですので今からご説明いたします。

強行法規とは

 強行法規とは、問答無用に適用される法規です。
 は?ですよね(笑)。はい。今からもっと噛み砕いてご説明いたします。
 以前、詐欺強迫についてご説明いたしました。その時に、「詐欺取り消されるまでは有効で、強迫無効、つまりそもそも成立すらしていない」というお話をいたしました。この強迫に関する無効の規定こそ、強行法規と呼ばれるものです。強迫による契約は無効、つまりそもそも成立すらしないですよね。そもそも成立すらしない、というのは問答無用で無効、という事ですよね。それが強行法規というものです。

任意法規とは

 先ほど、詐欺と強迫のお話をいたしました。そして、強迫による契約無効の規定は強行法規だ、と申し上げました。
 あれ?じゃあ詐欺の契約は?
 はい。実は、この詐欺の契約のように、取り消されるまで有効な契約は、任意法規に属するものになります(詐欺も、あまりに悪質なものであったりなど、場合によっては公序良俗違反で無効になることもありますのであしからず。公序良俗についてはまた改めてご説明いたします)。

契約自由の原則

 ここで一度、民法の基本原則に立ち返ります。民法には、契約自由の原則という基本原則があります。この契約自由の原則という言葉からわかるように、基本的に契約というものは自由に決められます。それを民法は基本原則としているのです。つまり、民法先生は、基本的には我々に対し「自由にやったらええがな」という立場を取ります。従いまして、我々は契約の内容を自由に決められ自由に契約を結べるのです。それにより円滑な取引が実現し、ひいては経済の発展にも繋がるのです。
 ただし!何でもかんでも自由に決められる訳ではありません。なぜなら、本当に何でもかんでも自由に決められてしまうと、不備が生じてしまうからです。例えば、赤ん坊がバブバブ言って契約が成立しちゃったらオカシイですよね?コワ~イおにいさんが出てきて「テメー、ハンコ押さなかったらどうなるかわかってるよな?」なんて契約アリですか?メルカリで臓器の売買できますか?全部ナシですよね。ですので、強行法規という形で契約の自由に一定の制約を与えています。

強行法規と任意法規では効力が違う

 まとめると、強行法規は問答無用で適用され、任意法規は自由に内容を決められ自由に決められた内容によって適用されるものです。
 強迫による規定は強行法規なので、強迫による契約は問答無用で無効になります。
 詐欺による規定は強行法規ではないので、詐欺による契約は取り消すまでは有効になります。取り消すまでは有効という事は、自由に契約の内容を決めて、問題がなければ互いの合意で成立します。それが任意法規です。詐欺などの問題があれば、後に取消しの話になるという事です。

 強行法規と任意法規、おわかりになりましたでしょうか。おそらく、まだ今ひとつわからないのではないかと思います。これから民法の話を進めていく中で、次第に掴めていくと思いますので、徐々にご理解お深め頂ければと存じます。
 そして、最後にひとつだけ申し上げておきたいことがごさいます。今現在、もし契約関係のトラブルを抱えている方は、その契約の内容が強行法規に触れる内容なのかどうか、そこは注意して下さい。もし強行法規に触れるものであれば、そもそも成立すらしていない可能性もあります。逆に強行法規に触れていないのであれば、任意法規という事で、取り消すまでは有効に成立するもので、取り消すにしても何かしらの要件を満たすなど、立証が必要だったりします。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。
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強迫の超基本

 今回のテーマは強迫です。「脅迫」ではなく「強迫」です。民法では「強迫」という字を使いますのでご注意下さい(脅迫と書く場合は刑法になります)。
 前回、詐欺の学習は民法の学習の入り口になる事が多い、と申し上げました。今回扱う強迫は、基本的に詐欺とセットで学習する事になりますので、前回と合わせて、民法の基礎を学ぶのにちょうど良い学習になるかと存じます(前回の詐欺についての記事はこちらへ)。

事例1
AはBに持家を売った。しかし、そのAB間の売買契約はBの強迫により無理矢理行われたものだった。


 さて、いきなり事例を挙げましたが、この事例1で、Aは何ができるでしょうか?詐欺のときと同じように取り消す事ができるのでしょうか?
 正解は少し違います。正解は、AB間の売買契約は無効になります。詐欺のときは後に契約を取り消すのに対し、強迫による契約は無効になります(無効と取消しの違いについて詳しくは「無効と取消し」記事をご覧下さい)。つまり、詐欺の場合は取り消すまで有効で契約は成立しますが、強迫の場合はそもそも契約そのものが成立しない、という事になります。強迫による契約は、取り消すまでもなく、そもそも成立すらしていないのです。まずはここをしっかり押さえておいて下さい。
 では、次の場合はどうでしょうか。

事例2
AはBに持家を売った。その後、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの強迫によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らなかった。


 登場人物がもう一人、Cが現れました。しかも、AB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らないCは、善意の第三者というヤツです。事情を知らない第三者です。
 Aはどうする事ができるでしょうか?
 AはAB間の売買契約を取り消す事ができません。
 善意の第三者であるCがいるから?
 違います。もう少し正確に申し上げましょう。AはAB間の売買契約を取り消すまでもありません。なぜなら、そもそもAB間の売買契約は無効で、ハナッから契約そのものが成立していないからです。
 従いまして、事例2のケースでは、強迫の被害者のAはがっちり保護されます。一方、第三者のCは、たとえ善意であろうと家を手に入れることはできません。つまりこの場合は、Cは善意であろうと保護されることはないのです。 

無効というゼロはどこまでいってもゼロのまま

 従いまして、事例1も事例2も、AB間の売買契約は無効なので、その契約はハナっからナシなのです。さすがの民法先生も、強迫に関しては厳しく扱います。まあ、そりゃそうですよね。強迫による契約まで認めてしまったら、それこそ世の中の秩序が保たれませんから。もし、今現在、強迫によって結ばされた契約でトラブルになっている方がいらっしゃいましたら、そもそもその契約は成立していませんのでご注意下さい。
 しかし、世の中のワルとは、賢い生き物です。これぐらいの民法の規定は、大概知っているでしょう。ですので、強迫という明らさま手段はとらず、あの手この手を使って、あくまで本人の意思で契約した、という体裁をなんとしても整えるでしょう。そして契約後に、残酷な追い込みをかけるのです。
 皆さん。くれぐれも、特に「優しいワル」には、どうかお気をつけ下さいませ。
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詐欺の超基本

 今回のテーマは詐欺です。詐欺という言葉自体は、一般的にも馴染みがあると思います。カモを見つけて騙すシロサギ、色気を使って男を騙すアカサギ、詐欺師を騙すクロサギ...なんてのもありますね。
 話を戻します。民法では、詐欺についての学習が、民法への入口になることも多いようです。従いまして、詐欺についての学習は、民法の基礎を学ぶのに、ちょうどいいのではないでしょうか。
 それでは始めて参りたいと思います。

事例1
Aは持家をBに売ったが、その売買契約はBの詐欺によるものだった。Bの詐欺により、Aは持家を破格で売らされたのだ。


 この場合、AはBの詐欺を理由に売買契約を取り消すことができます。これは誰も何も異論はないでしょう。普通に考えて当然の事だと思います。では、次の場合はどうでしょうか。

事例2
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情など全く知らなかった。


 今度は、AB以外に、Cという登場人物が現れました。この場合も、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消すことができます。しかし!その取消しはCに対抗することはできません。つまり、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消してナシにしようとしても、Cがそれを認めなければナシにはできないのです。つまり、CがAB間の売買契約の取消しを認めなければ、Aは泣き寝入りするしかなくなります。
 それはいくらなんでもAが可哀想過ぎね?
 確かにそうです。しかし、我らが民法先生は、それよりも取引の安定性を重視します。ここでCを保護しないと、世の中の取引というものが円滑に行われず、ひいては経済の発展を阻害しかねない、と民法先生は考えるのです。つまり、このケースでは、民法先生は「取引の安全のためにAには犠牲になってもらおう」と言っているのです。もっと言うと、この世の中は契約社会で基本的には自己責任、だから騙されるAも悪い!と突き放すのです。
 正直、この結果には、納得できない方が多いでしょう。しかし、民法の学習を進めていき、リーガルマインドがある程度身に付いてくると、納得できるようにもなってきます。ですので、ここではとりあえず「民法ではそういうふうになっているんだ」と、無理矢理にでも理解して下さい。民法は、必ずしも弱者の保護を優先する訳ではないのです。
 話を戻します。この事例2では、Aは泣き寝入りの事態でした。しかし、次の場合には結果が違ってきます。

事例3
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情を知っていた。


 事例2との違いは、AB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事実をCが知っている、という点です。実はこの「事情を知っているか知らないか」というのは、民法的にかなり重要な違いになります。民法では、この違いが全ての結果の如何を左右すると言っても過言ではないくらいです。ですので、このような民法的な理論構成を、まずは頭に入れておいて下さい。

善意の第三者とは

 民法の詐欺に関する条文は、次のようになっております。

(詐欺又は強迫)
民法96条抜粋
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
〜省略〜
詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗できない。

 善意の第三者というのは、事情を知らない第三者という意味です。第三者とは、事例2,3で登場したCです。そして事例2の場合、Cは詐欺の事情を知らないので「善意の第三者」という扱いになり、民法の規定により保護されることになります。
 民法で使う善意とは、事情を知らないという意味です。
 また、事例3の場合は、Cは詐欺の事情を知っているので「悪意の第三者」という扱いになり、保護されません。
 民法で使う悪意とは、事情を知っているという意味です。その人に悪意があるかないかという意味ではありません。

 という訳で、今回は以上になります。最後までお読み頂きありがとうございます。
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心裡留保の超基本

 今回のテーマは心裡留保です。「しんりりゅうほ」と読みます。字は「心理」ではなく「心裡」になります。字面だけ見るとやけに難しそうに思えますが、そんなに難しい話ではございませんのでご安心下さい。

 当サイトで私は以前、この世の中は契約社会だ、というような事を申し上げました。それは、口約束だけでも成立する諾成契約の存在等が根拠となっているのですが、それではこのような契約は成立するでしょうか?

この俺が付けてる本物のロレックスの時計、千円で売ってやるよ!

 結論から申しますと、この契約は有効に成立します。これが心裡留保です。ちょっと驚きですよね。結論だけだと意味がよくわからないと思いますので、これからその内容・結論に至るまでの論理をご説明して参ります。
 先ほど挙げた例で、売主は果たして本気でロレックスの時計を千円で売ろうと思ったでしょうか?ひょっとしたら本気の可能性もなくはないですが、冗談で言っていると考えるのが通常だと思います。しかし、その冗談を相手が信じてしまっていたらどうでしょう?ロレックスの時計の価値というものをよくわかっていない人であれば、信じてしまうことは十分ありえますよね。すると相手は困りますよね。それは、取引の安全性を損なうと、民法は考えます。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

「真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」というところがつまり、冗談で言った事も有効に成立してしまいますよ、という意味になります。民法先生の前では、うかつに冗談も言えませんね(笑)。民法には「この世の中は契約社会で、基本的には自己責任」という考えがベースにあると思っておいて下さい。ですので、我々にとってみれば、民法には取引の安全性を重視して冷たく感じる部分があるのです。
 また、民法93条にはただし書きがあります。

民法93条但し書き
ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 これはどういう事かと申しますと、「冗談を言われた相手がそれが冗談だと分かっていればその契約は無効ですよ」という意味です。先のロレックスの例に当てはめて考えると、「この本物のロレックスの時計、千円で売ってやるよ!」と言われた相手が、それが冗談だとわかっていれば、その契約は無効になり、有効に成立しません。錯誤のときもそうでしたが、この「相手がそれを知っていたら」というところは、民法では非常によく出てきます。注意して頂きたいと存じます。
 また、先の条文では「知ることができたとき」という文言がありました。これは「たとえ相手が、それが冗談だと知らなかったとしても、ちょっと考えればわかるようなことは、知らなかったでは済みませんよ」という意味です。先述のロレックスの例に当てはめると、相手がロレックスの時計の価値をわかっていて「待てよ?本物のロレックスの時計を千円で売るなんておかしいよな?」と、ちょっと考えれば十分わかることであれば、その冗談で言った事は無効になり、契約は成立しません。

 以上が、心裡留保についてのご説明になります。簡単にまとめるとこうなります。
「冗談で言った事でも有効に契約は成立してしまうが相手がそれが冗談だとわかるときは無効になる」
 心裡留保、おわかりになって頂けましたでしょうか。
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表意者(本人)以外が錯誤の無効を主張できるとき

 以前、原則と例外と要件についてご説明申し上げました。それらを踏まえて、今回は要素の錯誤の無効について、付け加えてご説明申し上げたいと思います。

 要素の錯誤は、表意者(本人)に重過失(重大なミス)がないとき、表意者(本人)が無効を主張できます。しかし、ここでこんな例外がございます。なんと、錯誤の無効の主張を本人以外ができるときが存在するのです。つまり「あいつのあれは要素の錯誤だから無効だ」と、別の人間が言えるのです。それはどんなときなのか、それを今からご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときとは

 要素の錯誤の無効は、原則、表意者(本人)しか主張できません。なぜなら、要素の錯誤の無効の規定は、表意者(本人)を保護するためのものだからです。では、表意者(本人)を保護するための錯誤の無効の主張を表意者(本人)以外が主張できる場合とは、一体どんなときなのでしょうか?
 それは、表意者(本人)が錯誤の無効を主張してくれないと困ってしまう人がいて且つ表意者(本人)が錯誤を認めているときです。この説明だけだとよく分からないと思いますので、もう少し具体的にご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときの具体例

 たとえば、偽の骨董品がAからBに売られ、その後、BからCに転売された場合に、Cが錯誤の無効を主張してBC間の売買契約をナシにする、というのは通常の錯誤無効のケースだと思います。このとき、CはBからお金を返してもらう事になりますが、もしBに返すお金がなかったとき、Cはどうすればいいのでしょうか?
 そうです。このときに、CはAB間の売買契約の、Bによる錯誤の無効をC自身が自分で主張して、AB間の売買契約を無かったことにして、BのAに対する代金返還請求権を、CはBに代わって行使できるのです。つまり、Cは自分のお金をしっかり返してもらうためにBの代わりに、BがAからお金を返してもらう権利を、Bの代わりに行使できるという事です。CはAに「Bは錯誤だ!だからAB間の売買契約は無効だ!だからAはBに金を返せ!」と言えるのです。そして、そのお金でCはBからお金を返してもらう、という流れになります。ただしその場合、Bが自分の錯誤を認めていることが必要です。Bが自分の錯誤を認めていなかった場合は、このような権利の行使はできません。ちなみに、このような「BのAに対する権利をCがBに代わって行使する権利」を、債権者代位権といいます(債権者代位権については債権分野で改めて詳しくご説明いたします)。

補足
 最後にひとつ付け加えておきます。表意者(本人)に重過失(重大なミス)がある場合は錯誤の無効は主張できない、という話はすでに申し上げたと思いますが、実はこの場合でも、表意者が錯誤の無効を主張できるときがございます。それは相手が表意者の錯誤を知っていたときです。つまり、相手が表意者の重大なミスを知っていたのに教えてあげなかったときは、たとえ表意者に重過失があったとしても表意者は錯誤の無効を主張できます。これは、民法先生がこう言っているって事です。「気づいてたんなら言ってやれよ!」と(笑)。

 という訳で今回は以上になります。また次回も、よろしくお願い致します。
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「時」と「とき」・「無効」と「取消し」

 前回、原則と例外と要件についてご説明いたしました。今回はそれの延長のようなお話になりますが、当サイトでもすでに登場した「時」と「とき」、そして「無効」と「取消し」について、それらの法律ならではの言葉の使い方・使い分けとその意味について、簡単に解説して参ります。

「時」と「とき」

 法学部出身の方などにとってはとても基本的な事になると思いますが、そうでない方にとっては馴染みのない、法律の世界ならではの言葉の使い分けというものがございます。そのひとつが「時」と「とき」です。
 実はこの「時」と「とき」は、法律の世界では使い分けされています。どのように使い分けているかといいますと、まず「時」ですが、これは「時点」という意味です。バッターが構えた「時」、ピッチャーがボールを投げた「時」というような感じです。それに対して「とき」「場合」あるいは「シチュエーション」というような意味です。ツーアウト満塁の「とき」、ツーストライクスリーボールの「とき」というような感じです。野球がわからない方もいらっしゃると思いますので、恋愛に例えてみましょう。手を繋いだ「時」、映画館デートに行った「とき」というような感じです(笑)。
 おわかりになりましたでしょうか。この「時」と「とき」の使い分けを知った上で法律の文章を読むと、法解釈が今までと少し違ってくるかもしれません。ちなみに、冒頭に申し上げたとおり、この「時」と「とき」は、すでに当サイトで何度も登場しましたが、実は使い分けております。今一度ここで、過去の記事を読み返して頂ければ、おわかりになって頂けるかと思います(笑)。

「無効」と「取消し」

 無効という言葉も、すでに当サイトで何度も登場しました。無効という言葉自体の問題も特にないと思います。では、無効と取消しの違いは、おわかりになりますでしょうか。法律の世界では、無効と取消しは、区別されて使われています。それではひとつひとつ、ご説明して参ります。

 まず無効ですが、民法上の無効とは「始めから成立すらしていない」という意味です。ですので、その契約は無効だといったら、そもそもその契約は、始めから何の形も成していない、という事です。繰り返しますが、無効のものは、そもそも成立すらしていませんので、始めから何の形も成していないんです。ですので、無効の契約というのは、始めから成り立っていない契約なのです。無効のものは、始めから終わりまでゼロです。まずここをおさえておいて下さい。

 一方、取消し「一度有効になったものをナシにする」という意味です。この「一度有効になった」というところがポイントです。無効の場合は、始めからそもそも成立すらしていないのですが、取消しの場合は、一度有効になったものが、何らかの理由により取り消されてゼロになるだけです。取り消されて初めてナシになるということは、取り消されない限りは有効に成立します。

無効についてさらに詳しく

 ここまでの説明だけでも、おわかりになるかもしれませんが、念のため、もう少し噛み砕いてご説明いたします。
 無効な契約は、最初から成り立っていません。成り立っているように見えるだけで、実態のない契約です(となると錯誤の無効の主張というのは少しおかしな話で、そもそも無効なモノなら主張しようがしまいが無効なはず。本来の無効の意味としては。この辺りの細かい話は様々な学説がありますが、それについてはこちらでは割愛します)。つまり、無効の契約というのは「契約というカゴの中に何も入っていない契約」という事になります。カラッぽの契約という事です。具体例を挙げると、強迫で結ばされた契約が、まさにこれです。強迫によって強引に結ばされた契約は無効な契約です。そんな契約はそもそも法的に成立しません。もし、そうした形で結んだ契約でモメているのなら、そもそもその契約は成立すらしていませんのでご注意下さい。 
 繰り返しますが、無効の契約は「契約というカゴの中に何も入っていない」というイメージで捉えておいて下さい。

取消しについてさらに詳しく

 取り消せる契約というのは、取り消されるまでは有効に成立しています。取り消さなければ、普通に契約として存続します。つまり、「契約というカゴの中に一応モノが入っている契約」になります。具体例を挙げると、詐欺による契約がこれになります。詐欺で結ばされた契約は、実は取り消すまでは有効な契約なんです。なぜ世の中から詐欺がなくならないのか、これでわかりますよね。実は民法上でそのようになっているのです。
 あと、細かい話ですが、取消しと書いた場合は名詞で、取り消しと書いた場合は動詞になります。念のため申し上げておきます。
 
 無効と取消しの違い、おわかりになりましたでしょうか。無効と取消しという言葉は、今後も沢山出てくると思いますので、今回の話を頭に入れておいて頂ければと存じます。
 他にも、法律ならではの言葉の使い分けは色々ございますが、今回はここで締めます。今後もこのような法律用語解説は、必要となり次第行っていきます。
 尚、「強迫」について詳しくはこちらの記事を、「詐欺」について詳しくはこちらの記事をご覧下さい。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。また次回も宜しくお願い致します。
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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