分割債権(債務)と不可分債権(債務)

 債権とは、特定の者が特定の者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利です。例えば、Bにお金を貸したAが、Bに対して「金返せ」と請求する権利が、まさしく債権になります。
 ところで、債権関係は「特定の者・対・特定の者」ですが、必ずしも1対1の関係に限ったものではありません。1個の債権に複数の債権者または債務者が存在するケースもあります。そのようなケースを、多数当事者の債権(債務)関係といいます。
 というわけで今回は、その多数当事者の債権(債務)関係の中の、分割債権(債務)について、ご説明して参りたいと思います。

分割債権と不可分債権

 まず、債権(債務)には、分割できるものと分割できないものがあります。
 分割できる債権の代表は、お金を請求する金銭債権です。例えば、100万円を50万・50万、90万円を30万・30万・30万というように、お金は当然に割ることができますよね。
 一方、分割できない債権としては「そのピアノをよこせ」のような、物の引渡しを請求する債権があります。これは割ることができません。じゃあ僕は白鍵だけ、君は黒鍵だけ、なんてできませんよね。ピアノがバラバラになって使い物にならなくなってしまいます。
 ここでひとつ注意点!
 先ほど、金銭債権は分割できると申しましたが、実は、お金を請求する債権でも、建物などの賃料債権については、分割できないとされています。例えば、大家Aが死亡して、相続人がBCDの3人だったとします。すると、大家Aが賃借人に対して持つ「家賃払え」という賃料債権を、3人の相続人BCDが相続しますが、この賃料債権を3分割することはできません。つまり、家賃が9万円であれば、BCDの3人がそれぞれ3万円ずつ賃借人に請求する、ということができないのです。ですのでこのような場合は、BCDの3人の誰か1人が代表して9万円の家賃を請求して、受け取った9万円の家賃を3人で分け合う、などの形になります。
 なんかややこしくね
 そんなこともありません。だって賃借人の立場に立ってみれば、3人の大家から別々に3万円ずつ請求される方がややこしいですよね。
 でもなんで賃料債権はお金を請求する債権なのに分割できないの?
 それは、賃料債権に対する建物の賃貸債務分割できないからです。賃貸人(大家)は、賃借人に対して賃料債権を持つのと同時に、賃借人に対して目的物(建物)を使用収益させる(貸して使わせてあげる)義務があります。その義務というのが、賃貸人の目的物の賃貸債務です。そしてその賃貸債務は分割できないのです。なぜなら、例えば、Aさんにはリビングだけ賃貸して、Bさんにはバスルームだけ賃貸して、Cさんにはキッチンだけ賃貸して...なんてできないですよね?したがって、賃料債権は分割できないのです。
 尚、賃料債権のような分割できない債権を、不可分債権といいます。また、賃料債権が分割できないので、当然に賃料債務も分割できません。分割できない債務は、不可分債務といいます(賃借人が死亡して、その相続前に未払い賃料が発生していた場合は、その未払い賃料に関しては可分債務となる。詳しくは相続分野にて改めて解説します)。

分割債権(債務)の具体例

 それではここから、どのようなケースが分割債権(債務)になるのか、その具体例を見ていきます。

事例1
AはBに150万円を貸し付けている。そしてAは死亡した。尚、Aには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの貸金債権を3人は法定相続した。


 この事例で、C・D・Eの3人は、AのBに対する150万円の貸金債権を相続しました。このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の貸金債権は等しい割合で3分割されます(法定相続)。つまり、C・D・Eの3人は、それぞれBに対する50万円の貸金債権を持つことになります。この場合の3分割された債権こそ、まさしく分割債権です。

事例2
BはAから150万円を借金している。そしてBは、150万円の借金を残したまま死亡した。Bには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの借金150万円を3人は法定相続した。


 この事例で、C・D・Eの3人は、Aの借金150万円を相続しました。このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の借金は等しい割合で3分割されます。つまり、C・D・Eの3人は、それぞれ50万円の借金を背負うことになります。これが分割債務です。

 以上が分割債権・債務です。最後に念のため申し上げておきますが、債権者が複数になるのが分割債権債務者が複数になるのが分割債務です。ご注意下さい。
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連帯債務の超基本

 ひとつの債権関係に対して債務者が複数になるケースに、連帯債務があります。

事例
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。


 この事例は、連帯債務の典型的なケースです。150万円の借金という債務を、BCDの3人が連帯して負っています。つまり、150万円の貸金債権にB・C・Dという3人の債務者(連帯債務者)がいる、ということです。
 さて、ではこの事例で、BCDの3人の債務者それぞれが負うことになる債務の金額は、一体いくらになるのでしょうか?
 正解は、150万円全額です。
 え?マジで?
 マジです。実は、連帯債務においての各債務者は、ひとりひとりが債務の全部の履行義務(全額の支払い義務)を負います。

(履行の請求)
民法432条
数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

 つまり、連帯債務の場合は、分割債務のように債務を分け合う訳ではないのです。
 従いまして、事例のB・C・Dの3人は、ひとりひとりがそれぞれ150万円全額の支払い義務を負います。また、各債務者ひとりひとりが全額の支払い義務を負う、ということは、債権者は各債務者ひとりひとりに対して全額の支払い請求ができるということです。つまり、事例のAは、Bに対してもCに対してもDに対しても、「150万円返せ」と債務の全額が請求できます。これは、債権者にとっては非常にメリットが大きいですよね。分割債務であれば、債権者は、各債務者に対して分割された債務を分割された割合でしか請求できません。したがって、連帯債務は分割債務よりも債権者にとって有利なのです。
 なるほど。でも連帯債務にするためにはどうすればいいの?
 ある債権に対する債務を連帯債務にするには、契約の段階でそのような約定をします。つまり「この債務は連帯債務になりますよ」という約束を結んでおくということです。そして事例では、その約束をAとB・C・Dの間で結んでいたということです。Aは中々あなどれないヤツですね(笑)。

債権者Aが弁済を受けられる額はあくまで150万円

 事例のBCDは連帯債務なので、債権者Aは、ひとりひとりに対して150万円全額の請求ができるわけですが、ここで注意点があります。Aが弁済を受けられる(返済を受けられる)金額は、あくまで150万円までです。もちろん、連帯債務者BCDは、ひとりひとりに150万円全額の支払い義務があります。しかし、だからといって、債権者Aが150万円×3=450万円の弁済を受けられる訳ではありません。つまり、連帯債務とは、言ってみれば、債務について債務者が連帯責任を負うものなのです。ですので、連帯債務者BCDは、150万円の返済義務について、連帯して責任を負っているということです。ということなので、誰か1人がその責任を果たせば、残りの者の責任もなくなります。つまり、仮にBがAに対して150万円全額を弁済すれば、CとDの支払い義務(債務)はなくなります。

連帯債務ひとつひとつの債権債務関係はそれぞれが別個独立のもの

 例えば、事例の連帯債務において、AとBの間だけ錯誤などの理由で契約が無効になった場合、他の連帯債務者CDはどうなるのでしょうか?
 そのような場合、その契約が無効になるのはAB間だけです。したがって、AとC・D間の連帯債務の契約有効のままです。よって連帯債務者C・Dは、引き続き150万円の連帯債務を負い、Bだけがそこからいなくなります。つまり、連帯債務における債権者と連帯債務者ひとりひとりの債権債務関係は、それぞれが別個独立の債権債務関係になっているのです。さきほど、連帯債務とは、言ってみれば連帯責任だ、というようなことを申しましたが、その意味は、この点からも言えることなのです。
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連帯債務 請求の絶対効 債務の承認の相対効

事例
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。やがて月日が経過し、AのBCDに対する貸金債権は、時効による消滅が迫っている。


 この事例のB・C・Dは連帯債務を負っています(連帯債務者)。連帯債務ということは、Aは連帯債務者のBCDひとりひとりに、150万円全額の弁済を請求できます。そして、そのAの貸金債権は、月日の経過で時効により消滅しそうになっている、というのがこの事例の内容です。
 さて、Aとしては、150万円の貸金債権が時効により消滅してしまっては困ります。そこで、時効を中断させるために、Aは債務の履行を請求しなければなりません。ではこのとき、AがBに対して債務の履行の請求をした場合、C・Dについての消滅時効はどうなるのでしょうか?
 結論。AがBに対して債務の履行を請求すれば、AB間についての消滅時効が中断するのはもちろん、AC間・AD間についての消滅時効も中断します(消滅時効と消滅時効の中断についてはこちらをご参照下さい)。

相対効と絶対効

 連帯債務において、債権者と連帯債務者ひとりひとりとの関係はそれぞれ別個独立したものです。ですので、例えば、事例のAB間の債権債務関係が錯誤などにより無効になっても、AC間とAD間の債権債務関係は有効のままで、何の影響もありません。このような効果を、相対効といいます。相対とはつまり「人によって違う」という意味です。すなわち、相対効とは「人によって効果が違う」ということです。そして、民法は連帯債務について、相対効の原則を取ります。ですので、連帯債務においての債権者と連帯債務者ひとりひとりとの関係はそれぞれ別個独立したものなのです。連帯債務者は、ひとりひとり別個独立した関係でありながら債務について連帯責任を負っている、と考えると理解しやすいかもしれません(これについて詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。
 さて、そうなると、AがBに債務の履行を請求すると、AB間だけでなく、AC間・AD間の消滅時効も中断するのはおかしくね?となります。しかし、民法は「請求」については例外とします。つまり、請求については、相対効の原則を適用しないのです。そして、AがBに債務の履行を請求するとAB間のみならずAC間・AD間の消滅時効も中断する効果を、絶対効といいます。絶対とはつまり「人によって違わない」という意味です。すなわち、絶対効とは「人によって効果が違わない」ということです。したがって、請求の絶対効により、AがBに対して債務の履行を請求すれば、AB間の消滅時効が中断するだけでなく、AC間・AD間についての消滅時効も中断するのです。
 この請求の絶対効は、債権者にとってはとてもありがたい、債権者にとって有利な規定ですよね。

債務の承認の場合

 それでは今度は、3人の連帯債務者のうち、BだけがAに対して「債務の承認」をしたら、AC間・AD間の消滅時効はどうなるのでしょうか?
 消滅時効において、債権者に対して債務者が債務の承認をすると、消滅時効は中断します。したがって、BがAに対して債務の承認をすれば、AB間の消滅時効は当然に中断します。つまり、今ここで問題となるのは、「債務の承認」は相対効なのか絶対効なのか?です。
 結論。債務の承認相対効です。したがって、BがAに対して債務の承認をすると、AB間についての消滅時効だけが中断し、AC間・AD間の消滅時効は中断しません。ですので、もしAがそのまま放ったらかしていたら、C・Dの債務については時効により消滅してしまいます。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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