即時取得の3要件 その物の所有権は誰の手に?

事例
Aはギターを二本持っている。一本のギブソンのギターはメインとして使い、もう一本のYAMAHAのギターはサブとして使っている。ある日、AはBから「明日ライブがあるのにギターが壊れてしまった。俺はこの一本しかギターを持っていない。頼む。Aのギターを一本貸してくれないか?」と頼まれ、Aは「それだったら仕方ないな」と思い二つ返事で、サブで使っているYAMAHAのギターをBに貸した。ところが、Bはライブを終えても一向にそのギターをAに返さない。なんとBは、Cにそのギターを売っぱらって引き渡してしまった。実はBはあるキャバ嬢にぞっこんで、その売買代金を全てキャバクラ代にあてたのだった。


 この事例で、CはYAMAHAのギターの占有権を取得しています。その解説は前回の記事をご参照下さい。
 前回の説明では、今のところCは、まだ本権未満占有権止まりです。しかし、Cは3つの要件を満たすことによって占有権が本権に昇格し、YAMAHAのギターの所有権を取得します。
 3つの要件とは何か?
 それは前回も登場した、こちらの条文に記されています。

(即時取得)
民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する

 太字の部分が3つの要件になります。ちなみに「その動産について行使する権利」とは、今回の事例の場合は所有権になります。以上のことを事例に当てはめると、次のようになります。
 CはYAMAHAのギターを
1・取引行為によって
2・AB間の事情に関して善意で
3・無過失(落ち度なく)で

占有を開始していれば、占有権が本権に昇格し、所有権(その動産について行使する権利)を取得します。
 2と3の善意無過失については、もはや説明不要だと思います。要するに、CがYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失なく知らなければ、ということです。また、1の取引行為というのは、簡単に言えば「盗んだり騙し取ったり強奪していなければ」という意味です。つまり、取引行為とは、正当な手段ということです。以上の事をまとめると、こうなります。
 
「CはYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失なく知らず正当な手段で手に入れていれば、YAMAHAのギターの所有権を取得できる」

 このようになります。そして、このような形で所有権(本権)を取得することを、即時取得といいます。

てゆーかAはどうなるの?Cが所有権を取得したらAがかわいそうじゃね?

 そのとおりです。AはBのために、好意でYAMAHAのギターを貸しただけです。それなのに、Cが一定の要件を満たせば即時取得が成立し、Cのものになってしまいます。なんだか不公平な結果に思えますよね。しかし、民法はこう考えます。「Aが貸したからこういう事態を招いたんだろ?」と。つまり、Aにも帰責性あり(負うべき責任あり)と民法は考えるのです。そして、利益衡量取引の安全性の観点から、Cが一定の要件満たせばCの勝ち、とするのです(利益衡量についてはこちらの記事を、帰責性についてはこちらの記事をご参照下さい)。
 Aに対抗手段はないの? 
 もし裁判になり、Aができることは、Cに過失があることを主張立証することです。つまり、先述の3つの要件を全て満たせていないじゃないか!と主張し、それを立証するのです。もしそれが立証できれば、AはCに勝ち、無事YAMAHAのギターを取り返すことができます。あとは、Bに対し損害賠償請求するという手段もありますが、その方法だとYAMAHAのギターが返ってくる訳ではないですし、もしBが無資力(金がない)ならアウトです。
 いずれにせよ、Aには苦労する現実が待っていることになります。
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盗品の所有権はどうなる?

事例
Aは100万円で買ったヴィンテージギターを持っている。ある日、BはA宅に侵入しそのギターを盗み出した。そしてBはそのギターを自分の物だと偽り、そのことについて善意無過失で信じたCに売り渡した。その後、Bは行方をくらまし消息が掴めない。


 何だかいきなり不穏な事例から始まりましたが、この事例で、ギターの所有権を取得できるのは一体誰でしょう?Aが勝つのか?はたまたCに即時取得が認められるのか?
 この問題については、次の条文が適用されます。

(盗品又は遺失物の回復)
民法193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

 上記の条文の占有物とは、今回の事例のギターになり、そのギターはBによって盗まれたものなので「盗品又は遺失物」に当てはまります。
 それでは結論を申し上げます。Aはギターを盗まれた時から2年間は、Cから無償でギターを取り戻せます。Cが善意無過失であろうと関係ありません。無償というのはタダということです。つまり、相手が善意無過失だろうが盗まれた時から2年間はタダで取り戻せます。

帰責事由の有無 

 今回の結論は、ギターが盗品だから、というのもあるかと思いますが、実はそれよりも、帰責性が関係しています。前回の記事で扱った事例では、Aにも帰責性アリとし、Aには厳しい結果が待っていました。しかし、今回の事例では、かなりA寄りの結論です。それはなぜか?それは、今回の事例では、Aには帰責性ナシと民法は考えるからです。つまり、Aはなんの落ち度もないただの被害者なのです。そうなると、利益衡量の観点から、なんにも悪くない被害者のAを勝たせるのが妥当だ!取引の安全性よりもAを保護するのが妥当だ!という結論になるのです。

補足2点
・横領
 もし、今回の事例で、Bの盗みではなくAからBへの横領の場合は、なんと、Cの即時取得が成立します。なぜなら、横領の場合、AはBに自ら手渡しているはずだからです。よって、Aにも帰責性アリとなり、Cの即時取得が成立します。
・2年間の起算点の注意点
 盗まれた時から2年間は無償で取り戻せる、と申しましたが、この2年間の起算点はどこなのでしょう?これは、実際に盗まれた時になります。「盗まれたことを知った時」ではありませんのでご注意下さい。ですので、今回の事例のAの保護は厚いものになっておりますが、Aがボサッとしていて2年間が過ぎてしまうと、Cの勝ちになってしまいます。
 民法は、いつまでも権利関係を曖昧にしておくことを好ましく思いません。いつまでもそのような問題を扱っていたら、裁判所もごった返して困ってしまいます。ですので、あらかじめ画一的に期間を設けて、その期間が過ぎてしまったら恨みっこナシでいきましょう、としているのです。従いまして、もし何か皆さんのまわりで法的なトラブルが起こったら、ボヤボヤせずにできるだけ早く行動して対処しましょう。
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簡易の引渡し・占有移転・占有改定 占有権の移転 

 占有権は、自分の物だと思って物を所持(事実上の支配状態)することによって取得します。

(占有権の取得)
民法180条
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

占有は、物を所持する事実状態をいいます。ですので、実は、自分の物だと言い張れば泥棒にも占有権はあります。ちょっとビックリですよね。ただ、あくまで占有権止まりです。さすがに本権(所有権)までは取得できません。本権を持った人間に「返せ」と言われれば、それは当然返さなければなりません。この本権をもって物の返還を要求する権利を、本権(所有権)に基づく返還請求権といいます。この用語は覚えておいて下さい。
 話を占有に戻します。それでは、占有権はどのように移転するのでしょうか?それについては、次の条文に規定されています。

(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
民法182条
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。

 譲渡は移転と同じ意味です。つまり、占有権は物の引渡しによって移転します。これは所有権と一緒ですね。しかし!実は占有権の移転には、現実に物を引き渡さなくても生じるケースが三つあります。
1・簡易の引渡し
2・指図による占有移転
3・占有改定
 ひとつひとつ見ていきます。

1・簡易の引渡し
 元々預けておいた物を相手にそのまま売ってしまうケース。
 例えば、AがBにスピーカーを預けていて、AがそのスピーカーをそのままBに売ってしまうようなこと。
2・指図による占有移転
 倉庫業者に預けている物を○○さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後○○さんのために占有しろ」と命じるケース。
 例えば、Aが倉庫業者に預けてあるスピーカーを、Bに承諾の上で、Aが倉庫業者に対し「以後Bのためにそのスピーカーを占有してくれ」と命じること。
3・占有改定
 占有者が、今後は○○さんのためにこの物を所持すると意思表示したケース。
 例えば、Aが「今後このスピーカーはBのために所持する」と意思表示すること。

 上記1、2、3のいずれの方法でも、占有権が移転します。上記説明中の例えで言うなら、1、2、3のいずれもスピーカーの占有権がAからBに移転します。

三つの方法には重要な違いがある

 実は、簡易の引き渡し、指図による占有移転、占有改定には重要な違いがあります。それは、即時取得が成立するかどうかです。即時取得が成立するかどうかということは、占有権が本権に昇格し、所有権を取得できるかどうかということです。これは大きな違いですよね。その違いはこうです。
簡易の引き渡し→即時取得◯
指図による占有移転→即時取得◯
占有改定→即時取得×

 簡易の引き渡しと指図による占有移転は即時取得可能ですが、占有改定には即時取得が認められません。これは裁判所がそういう結論を出しています。つまり、判例でそうなっているという事です。その詳細は割愛しますが、この、即時取得ができるかどうかの違いはとても大事なので、しっかり覚えておいて頂ければと存じます。

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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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