抵当権の侵害による妨害排除請求権

 抵当権が侵害されるような事態になったとき、抵当権者には何ができるのでしょうか?
 今回は、抵当権に基づく妨害排除請求権について解説して参ります。

事例
BはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の山林(時価総額5000万円相当)に抵当権を設定した。その後、Bは不当にその山林を伐採した。尚、伐採した材木の価格は1000万円相当である。

 まずは事例の状況を確認します。
 抵当権は、担保目的物(抵当権を設定した不動産)の使用収益は抵当権設定者が自由に行います。つまり、事例の抵当権設定者Bは、抵当権を設定後も山林を自身で自由に使用収益できます。そして、それは抵当権設定者だけでなく、抵当権者にもメリットがあります。抵当権者は自分で担保目的物の管理をする必要はないし、抵当権設定者が自由に担保目的物を使用収益することによって得た利益から弁済してもらえるわけですから。ところが、事例では問題が生じています。それは、抵当権設定者Bが、自由に山林(担保目的物)を使用収益できることをいいことに「不当に」山林の伐採を行ったことです。抵当権設定者Bは、担保目的物の山林を自由に使用収益できます。しかし、それはあくまで通常の山林経営です。通常の山林経営で収益を上げることは何ら問題はありません。むしろ、その収益から弁済してもらえれば抵当権者Aとしても望ましいことです。したがって、抵当権設定者Bが通常の山林経営では行わない行為、つまり「不当に」山林を伐採したことは、問題アリなのです。そして、Bのそのような行為は、Aの抵当権を侵害する行為にあたります。
 さて、それでは、そのような抵当権を侵害する行為をした抵当権設定者Bに対して、抵当権者Aはどのような請求ができるのでしょうか?

 AはBに対して、抵当権に基づく妨害排除の請求ができます。その請求とは次の2つです。

・伐採した材木の搬出禁止の請求
・すでに材木が搬出されていた場合、その材木を元の場所に戻せという請求

 それではひとつひとつ解説したします。

・伐採した材木の搬出禁止の請求
 Bが不当に伐採した材木の価格は1000万円相当です。ですので、残った山林の価格は5000万ー1000万=4000万円分あり、AがBに融資した額、すなわちAのBに対する債権額2000万円を担保するにはまだ十分とも言えます。しかし、それでも抵当権者Aは、抵当権設定者Bに対して、伐採した材木の搬出禁止の請求ができます。その理由は、抵当権の不可分性です。
 抵当権の不可分性とは、担保物権を持つ者は被担保債権の全額の弁済があるまでその目的物の全部について権利を行使できる、という性質です。つまり、抵当権者Aは、被担保債権の額(貸した金額)は2000万円ですが、担保目的物の全体、すなわち5000万円の山林全体に対して抵当権を実行できるということです。ですので、5000万円の山林全体の一部である1000万円相当の材木に対しても、それが「不当な」伐採であれば「侵害があった」ということだけを理由にして、AはBに対してその妨害の排除を請求できるのです。
 従いまして、抵当権者Aは「侵害があった」ということを理由にして、抵当権設定者Bに対して、伐採した1000万円相当の材木の搬出禁止の請求ができます。

・すでに材木が搬出されていた場合、その材木を元の場所に戻せという請求
 抵当権設定者Bが不当に伐採した材木がすでに搬出されていた場合でも、抵当権者Aは材木の返還請求ができます。ただし、することができる請求は「元の場所に戻せ」です。「私に引き渡せ!」という請求はできません。なぜなら、抵当権は占有を内容としない権利だからです。つまり、抵当権者Aには山林の占有権限はないので、Bに対してできる請求はあくまで「不当に伐採した材木を元の場所に戻せ」なのです。むしろ占有権限のない者が自己への引渡し請求をすることは、ありえないことなのです。この点はご注意下さい。

第三者が故意・過失なく誤信して山林を伐採した場合

 それでは、第三者Cが故意・過失なく自身の山林だと誤信してBの山林を伐採した場合、どうなるのでしょうか?
 この場合も、抵当権者Aは第三者Cに対して「侵害があった」ということだけを理由に、先述の抵当権に基づく妨害排除請求「伐採した材木の搬出禁止・搬出された材木を元に戻せ」ができます。しかも、第三者Cに故意・過失がなくてもです。このとき、抵当権者Aに求められる要件は登記です。つまり、抵当権者Aは、しっかり抵当権の登記さえしていれば、第三者Cに故意・過失がなかろうが、抵当権に基づく妨害排除請求ができます。
 抵当権てスゲェ
 そうですね。これは、抵当権は担保物権、すなわち物権であることの表れでしょう。形を変えた「物権=排他的支配権」としての意味を表しているとも言えますね。

転貸賃料債権への物上代位

 抵当権が設定された不動産が賃貸されていた場合、抵当権者は物上代位によりその不動産の賃料債権を差し押さえることができます。
 では、抵当権が設定された不動産が転貸(また貸し)されていた場合に、その転貸賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

事例1
BはCに自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてCはDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。


 この事例1では「オーナーB→賃借人・転貸人C→転借人D」と転貸(また貸し)されたB所有の甲建物にAの抵当権が設定され、その後に抵当権が実行されました。
 さて、ではこの場合に、抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する「家賃払え」という賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

    オーナーB
(賃料債権)↓     ↓
   賃借人・転貸人C
(賃料債権)↓⇦ここに物上代位できるのか?
    転借人D

 まず、普通に考えると、抵当権者Aが転貸人CのDに対する賃料債権に物上代位できるわけがありません。なぜなら、Cは甲建物の賃借人でしかないからです。抵当権者Aから融資を受けたのは抵当権設定者であるBです。抵当権による負担抵当権設定者であるBが負うべきものです。それはCが転貸人としてDに甲建物を転貸していることとは全く別の問題です。ですので、抵当権の負担はBが負うべきで、Cが負うのはどう考えてもオカシな話なのです。
 従いまして、抵当権者Aは、転貸人(賃借人)Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することは、原則、できません。
 ただし、例外的に、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位できる場合があります。

事例2
BはC会社に自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてC会社はDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。尚、C会社はB個人が設立し、B自身が代表取締役を務めている。


 この事例2の場合は、なんと抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができます。つまり、抵当権者Aは、C会社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえることができるのです。

なぜ事例2では転貸人Cの賃料債権に物上代位できるのか

 それは、事例2の場合、オーナーBと転貸人(賃借人)Cが実質同一の者と考えられるからです。
 問題はないの?
 本来、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位することはできません。その理由はこれまでにご説明申し上げたとおりです。しかし、事例2の場合は、Aから融資を受けた抵当権設定者Bと、甲建物をDにまた貸ししている転貸人Cが、実質同一の者と考えられるので、転貸人CのDに対する賃料債権と、抵当権設定者BのCに対する賃料債権も、実質同一のものと考えることができます。従いまして、事例2の場合、抵当権者Aが甲建物の転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができても、何も問題はないのです。

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